★正直、『涙そうそう』は全然泣けなかったけど、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ！オトナ帝国の逆襲』は何度見ても泣いてしまう……｡･ﾟ･(ﾉД`)･ﾟ･｡

　★吉田 紀子・吉田 雄生著『涙そうそう』（AA）読了。
　主人公の洋太郎と母の再婚相手の連れ子のカオルは、血の繋がっていないながらも非常に仲睦まじい兄妹でした。再婚して1年で父の蒸発、癌による母の死去という不幸を乗り越え、二人は逞しく育っていき、16歳で洋太郎は定時制高校へ通うため独立します。それから5年後、妹の高校入学を切っ掛けに洋太郎とカオルは同居を始めます。この時、既に恋人がいた洋太郎ですが、カオルとの二人暮らしを続けるうちに特別な想いを感じ始めるのです。
　という、“血の繋がらない兄妹の絆”が『涙そうそう』のテーマです。まあ、まずは以下の引用部分を読んでほしいです。引用箇所は、『涙そうそう』の冒頭5〜6ページ。

　何度この浜辺を妹と歩いただろう。
　眠れない、と妹が夜泣き出すと、ここに連れて来て波の音を聞いた。
　兄妹の幼い影が二つ、月明かりに照らされる。
「兄ィニィ、あのね、あたしね」
　妹が、話しかける。
「んー？」
「大きくなったら兄ィニィのおヨメさんになる」
　ドキリとして立ち止まり、妹を見る。
「ダメ？」
「ダメさ」
　優しく答える。
「なんで？　兄ィニィ、あたしのことキライなの？」
「バカか、知らんのか？」
「なに？」
　妹が無邪気に顔を向ける。
「兄妹は結婚できないんだぞ」

　映画がラジオで話題になっていたから、見に行く気はないけど小説版は読んでおこうと立ち読みして最初に飛び込んできたのがコレ。もう、この2ページ読んだ瞬間に、私の中でダメオタク脳というかギャルゲフィルタが掛かっちゃってちっとも純粋に読めませんでした。次の引用は、洋太郎とカオルが5年ぶりに再会したシーン。

　洋太郎は呼吸を整えながら、甲板の上に立つひとりの背の高い女性に目を遣った。洋太郎よりも先に気付き、大きく手を振っている。
「兄ィニィ！　兄ィニーィ!!」
（中略）
　カオルは船から一番乗りで降りてきて洋太郎に無邪気に抱きついてきた。洋太郎は棒のように固まってフラフラすることしかできない。十歳の頃から端正になりだした顔つきにはますます磨きがかかり、透明感のある美しさを備えている。身長も信じられないほど伸び、体つきは十五歳にして大人の女性そのものだ。
（中略）
　考えてみれば十歳から十五歳といえば、子供が大人になるための変貌を遂げていく時期である。洋太郎の驚きももっともだが、当のカオルは怪訝そうに兄の顔を覗き込んでいる。
「兄ィニィ、怒ってんの」
「怒ってないよ」
「あ、怒ってる」
「怒ってないって」
「兄ィニィさあ」
「何」
「背。縮んだんじゃない？」
　洋太郎は、そういってケラケラ笑うカオルの頭をはたき、行くぞ、と声を掛けた。
「なにさ〜、せっかくの感動の対面だったのにい〜。あ、ねぇねぇ、チュウする？　再会のチュウ。外人さんみたいに」
「バッ……」
「あー、赤くなってる！　なーんだかわいい、兄ィニィってば！　あ、そうだ、おばあちゃんからクバ餅預かってきたんだよ。兄ィニィに食べさしてって。懐かしいでしょ」

著：吉田 紀子、吉田 雄生『涙そうそう』　p80〜84より

　何というか、まるでギャルゲの再会シーンによくあるテンプレートの様ですよ（苦笑　次は、カオルが洋太郎に家に訪れてすぐのシーン。

　洋太郎がカオルのために夕飯を用意しようと、慣れた手つきで美登里直伝のチャンプルーを作っていると、シャワールームから悲鳴のような大声が響き渡ってきた。
　何事かと慌てて駆け寄ると、バスタオルを胸に巻き、裸同然の格好でカオルが飛び出してくる。
「水！　止まらんよ！　こわれてるよコレ！」
　洋太郎は一瞬その姿に目を奪われそうになったが、カオルの指す方を見ると、シャワーの水がものすごい勢いで溢れ出している。
「え！　あ。だから。ちょっとどけ！」
　早速“デストロイヤー”の本領発揮である。洋太郎は、またかよ、という慣れた感覚でカオルの破壊したシャワールームの修繕にとりかかったが、これも五年ぶりの出来事だ。違うのは、後ろに立って洋太郎の様子を眺める妹のその姿。どぎまぎしながら古い栓を力任せにひねり、数分の格闘の末、ようやく水を止めることに成功した。
「ふー。死ぬかと思った……うわ、なんねぇ兄ィニィ、その頭。カッパみたいさぁ」
　バスタオルを巻いたままのカオルは当時と同様他人事のようにそう言うと、洋太郎のびしょ濡れの頭を見て笑い転げた。
「……早く服着ろ」
　カオルとまた一緒に暮らせるんだ、と喜びの感情ばかりに支配されていた洋太郎は、このような事態を全く予想していなかった。高校生となる十五歳のカオル。彼女がこんな大人になっていたなんて。
（中略）
　この日の夜は幾分風が強く、ボロの平屋をカタカタ揺らしている。
「兄ィニィ、やっとまた一緒に暮らせるんだね……長かった」
　ベッドに横わたって興奮して眠れなさそうにしているカオルは、隣室で眠る洋太郎にそう話しかけた。
「淋しかったか」
「淋しくないさぁ。みんな優しかったから寂しくなんかなかったけどさ。ねえ兄ィニィ、そっち行っていい？」
「ダメだよ、何言ってんだバカか、狭いしさ……あ、おまえ風の音が怖いんだろ」
「ちがうよ」
「へっへ〜、相変わらずだなおまえ」
「ちがうけどさ！　いいでしょ！　久しぶりだしさぁ。話したいことがいっぱいあるんだよ！　今日だけだよ今日だけ」
　と、有無を言わさずどんどん布団を引きずり、洋太郎の横にごろん、と寝転ぶ。そして幼い頃いつもそうしていたように、カオルは洋太郎の方へ手を伸ばしてつなごうとしたが、やめた。

著：吉田 紀子、吉田 雄生『涙そうそう』　p85〜89より

　なんだこのエロフラグは？　読みながら、それっぽいギャルゲのシーンが思い浮かんで、苦笑いをかみ殺しました。以後の洋太郎とカオルのやりとりも、概ねこんな感じ。しかし、二人の幸せも長くは続きません。洋太郎は、騙されて借金こさえて、それが原因で恋人と別れたり。カオルは、兄を助けようと内緒でバイトしていたことがばれて、洋太郎との間に微妙な溝ができてしまいます。カオルは、大学進学を機会に洋太郎の家を出ることを決めるのです。卒業式の日、洋太郎はカオルを学校の近くまで車で送り、それなりに幸せだった二人の生活はピリオドを迎えます。

「兄ィニィ」
「ん」
「私。兄ィニィのこと大好き」
「は？」
「アイシテイルヨ」
「……バカか。おまえは」
　胸がいっぱいになってしまったが、カオルには悟られたくない。
「早く行け」
「……わかった。もう行く」
　カオルは洋太郎に顔を向けたまま少しずつ遠ざかっていく。
「兄ィニィ、無理しちゃだめだよ。ちゃんとご飯も食べて働き過ぎないようにね」
「わかってるよ」
「じゃあね。元気でね」
　二人の距離が遠ざかっていく。カオル。カオル。カオル。
　洋太郎は想いを振り切るように車に乗り込んでエンジンをかけ、ハンドルに突っ伏したまま、叫びのような溜息を短く大きく吐き出した。
「兄ィニィ！」
　ふと顔を上げると、カオルが立ち止まり振り返っている。
「長い間、お世話になりました」
　そう言って深々とお辞儀をし、精一杯の笑顔で手を振っている。
　洋太郎も手を振り返したが、もう既にグシャグシャにぼやけてしまっているカオルの姿をとらえきれていない。洋太郎もカオルも鼻をつまみ、涙をこらえながら互いに背を向け、声にならない別れを告げた。
「バイバイ」

著：吉田 紀子、吉田 雄生『涙そうそう』　p179〜180より

　この辺りが、私にとっての感動のピークかな。
　ただ、この後の洋太郎の展開というかオチがちょっと納得できるものではなく、安易に○○○てお涙ちょうだいを演出した感じがして、かえって興ざめしてしまいカタルシスを感じることができませんでした。

関連サイト
映画『涙そうそう』公式サイト