200805-30 DIARY
『10分で判る『オリエント急行の殺人』 その2』
★10分で判る『オリエント急行の殺人』 その2
著：アガサ・クリスティ 訳：中村能三『オリエント急行の殺人』（AA）
アームストロング幼児誘拐事件
アームストロング大佐とアメリカの悲劇女優リンダ・アーデン夫婦の間にうまれた一人娘、デイジー・アームストロングが誘拐殺害された事件。
デイジーは三歳の時に誘拐され、命と引き換えに身代金に二十万ドルという途方もない額を要求された。ところが、莫大な身代金を払った後、デイジーは死体となって発見された。少なくとも、死後二週間はたっていた。ミセズ・アームストロングは妊娠していたが、この時のショックで早産・死児となり、後に婦人も他界。夫のアームストロングは、絶望のあまりピストル自殺を図った。
警察当局は、容疑者の一人としてフランス人かスイス人の子守娘を挙げたが、その女は容疑を全面否定。ヒステリックに無実を訴える女を、警察は一切信用しなかった。そして、女は、絶望して自ら命を絶った。結局、女は事件と全く関係なく、半年後にカセッティという男が、デイジー・アームストロング誘拐の一味の首領として逮捕された。カセッティは、過去に同じ手口で身代金誘拐を行っていた。警察の手が伸びるとみるや人質を殺して遺体を隠し、犯行が発覚するまで被害者家族から身代金を巻きあげるという手である。
アームストロング幼児誘拐事件の犯人は、間違いなくカセッティである。しかし、カセッティは、巻きあげた身代金を使って様々な人物の秘密を握り、不起訴処分という名目で釈放された。彼は名前を変え、アメリカを離れ、外国を旅行し、利子で暮らす生活をしていた。
アームストロング幼児誘拐事件とオリエント急行殺人事件の関係
問題は、この犯行がカセッティが過去に裏切ったことのある敵対関係のギャングか、個人的な復讐行為なのかということ。
車室にあった黒こげの紙片。この手紙を燃やしたのは犯人であり、『アームストロング』と関係のある人物である。生きているアームストロングの家族で、ミセズ・アームストロングの妹のことは記憶にある。
ラチェット殺害の犯行時刻の確認
午前十二時三十七分に車掌に話しかけるのを聞いている。この時にまだラチェットは生きていた。ポアロはそれに対して答えなかった。
寝台車車掌の証言
ピエール・ミシェル。国際寝台車会社に勤続十五年。カレーの近くに在住。立派な、正直者。
──ラチェットがベッドに付いたのは何時
「夕食の後でございましたよ。まだベオグラードを出ないうちでございました。前の晩もそうでした。夕食のあいだベッドの支度をしておくようにとお申しつけでしたので、そのとおりにいたしました」
──ラチェットの車室に入った者はいるか
「召使いと秘書の若いアメリカ人の方が。ほかにはございません。わたくしの知っているかぎりでは」
──それきり、ラチェットの姿を見なかったし、声も聞かなかった？
「いいえ。ベルをお鳴らしになりました。一時二十分ばかり前の頃で──汽車が止まったすぐ後でございます。ノックをいたしますと、なかから大声でまちがいだったとおっしゃいました。フランス語で。『なんでもない。（ス・ネ・リヤン）まちがったんだ（ジュ・ム・スュイ・トロンベ）』それで、引き返したのでございます」
──そのまま席に戻ったのか
「いいえ。ちょうどそのとき、ほかのベルが鳴りましたので、そちらの方に先に参りました」
──一時十五分にどこにいた
「いちばん端にある自分の狭い席におりました──通廊のほうを向いて。（まちがいないね？）はい、さようで──ただ──隣の車両、アテネで連結した車両でございますが、そこに仲間がおりますので、話しに参りました。雪のことを話しあいました。一時を過ぎてまもなくでございます。はっきりと申しあげられませんが。もどってきたのは、またベルが鳴ったときでございます。申しあげたと思いますが、アメリカ人のご婦人でございます。何度もお鳴らしになりまして。その後は、あなたがベルをお鳴らしになって、お申しつけでミネラル・ウォーターを持って参りました。それから、三十分ばかりして、ほかの部屋のベッドの支度をいたしました。──ラチェットの秘書の若いアメリカ人でございます」
──マックイーンは一人きりだった？
「十五号室のイギリス人の大佐がご一緒でございました。腰をおろして話していらっしゃいました」
──大佐はマックイーンと別れてどうした？
「ご自分の車室におもどりになりました。大佐の車室は、通廊の端から二番目の車室でございます」
──大佐のベッドは支度してあったか？
「はい。夕食に行っていらっしゃるあいだに支度をしておきました。確か二時は過ぎていなかったと思います」
──その後は？
「朝まで自分の席におりました。アテネからの車両に参ってはおりません。居眠りはしていないと思いますけど。列車がとまったままだったものですから、勝手がちがって、ふだんのように居眠りもできませんでした」
──乗客の誰かが通るのを見たか
「ご婦人が一人、車両のはずれのお手洗いにおいでになったと思います。（どのご婦人？）わかりません。お手洗いは通廊のいちばん端にございますし、後ろ姿しか見てなかったものでございますから。でも、龍の模様の真っ赤なキモノをお召しでございました」
──それから？
「なにもございませんでした、朝まで。（まちがいないね？）ああ、失礼しました。あなたが、ムシュー、ドアをお開けになって、ちょっと顔をお出しになりました」
──なにか重いものがドアに倒れかかるような音に心当たりは？
「そんなことはございませんでした。たしかに、なんにも」
──昨夜のうちに犯人が列車に乗りこんだとしたら、犯行後、列車から離れることはできなかったことは確かか
「（うなずく）寝台車に乗りこめば、かならずわたくしの眼につくはずです」
──最後の停車駅は？
「ヴィンコヴチでございます。十一時五十八分発車だったはずだったのでございますが、天候のため十分遅れました」
──普通車から入り込むことは
「そんなことはできません。お客さまの夕食がすみますと、普通車と寝台車のあいだのドアに鍵をかけますから」
──ヴィンコヴチで降りた？
「はい。いつものようにプラットフォームに降りて、ステップのそば立っておりました。ほかの車掌も同じようにしておりました」
──食堂車に近い方のドアは？
「いつも内側から鍵をかけてあります。（いまはかかっていないよ）きっとどなたかお客さまが、雪を見ようとお開けになったのでございましょう」
──ラチェットの車室のドアをノックしているときに、ほかのベルが鳴ったが、あれは誰？
「ドラゴミロフ公爵夫人でございます。小間使いを呼んでくれとのことで、そのとおりにいたしました」
著：キース・ベイカー『D＆Dノベル 砕かれた大地 上』
著：キース・ベイカー『D＆Dノベル 砕かれた大地 下』
著：アガサ・クリスティ 訳：乾信一郎『復讐の女神』
著：アガサ・クリスティ 訳：綾川梓『スリーピング・マーダー』
著：アーサー・C・クラーク 訳：山高昭『2061年宇宙の旅』
著：アーサー・C・クラーク 訳：小隅黎＆岡田靖史『神の鉄槌』
