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鉄仮面演説

 すでに、コスモ・バビロニアの建国が、地球連邦政府に変わる高貴な精神性にのっとって為されるものであることは、理解していると信じています。この建国が達成されれば、クロスボーン・バンガードなどという武力集団は、破棄して見せましょう。
 なぜか? 理由は、明快です。戦争は悲惨であり、悲しみを積み重ねるだけのものだけだからです。わたしは、私の息子と娘が、血まみれになって死ぬ姿を、見ることはできません。それに、武力による解決などは、どこにもないということは、歴史が示していることであります。しかし、残念なことに、時に愚鈍なる者を恐れさせて、恭順させるためには、武力が有効なときもあるのです……間違いを指摘しても直せない愚かな人々でも、生きるためには、特別な能力を発揮するものです。自分が努力しないですませるための理由を語ることができることは、本来、能力といえるものではないのです。しかし、人類は、そのように能力を使って、能力そのものを消耗してきました。
 世を平らかにできるものは、精神が高貴であり、理想を描くことのできる能力を持った者でなければならないのです。宇宙世紀の人類圏が行ったもっとも決定的な過ちは、それらの資質を持たない普通の人々によって、あらゆることが統治されてきたからであります。それは、絶対民主主義という美辞麗句によって、隠蔽されてきました。
 われわれは、個々人の欲望を吐き出しすぎたのです。しかし、個々人の欲望を満たすこととは、何か? 利益を上げるということは、一体何を意味するのか? 幸せを獲得することとは? それらのことを達成するために、資本主義が進化したとされますが、それが、共産主義より優れていたという神話によって、経済は正義となり、科学まで荷担させて手に入れたものは、狭視的なエゴを育成しただけでした。その結果が今日の連邦政府が作った、差別と特権の乱用の世界なのです。地球連邦政府は、その権化であります!
 この狭いテリトリーで、そのエゴを抜け出した体勢を獲得しなければ、われわれは、スペース・コロニーさえも放棄しなければならなくなります。そのときは、地球は、すでにありません。そんな人間の悲惨な未来を将来させないために、われわれは、理想に一歩でもちかづける高貴さをもって、新しい体制を構築しなければならないのです。それが、コスモ・バビロニアなのです。
 わたくしは、高貴なる者ではありませんから、このように醜い鉄仮面をかぶり、捨て石になる覚悟をいたしました。私の任務は、コスモ・バビロニアを支えてくれる高貴なる者を発見して、われわれに道を示してくれるための器をつくるためなのです。ですから、私と意見を異にするものは、わたしを討って良いのです。そのための仮面です。わたしは、わたしを討つ者の顔を見たくないために、この仮面をかぶりました。ですから、いつでも、背中からでも、わたしを討ちなさい。しかし、ここで、今、その者に呼びかけておきます。わたしを討ったあとは、ここで語った理念だけは、まちがったものではないのだから、それを引き継げ、と!
 遠くの市民の方々には、見えなかったでありましょうが、いま只今、このわたくしを狙撃したものがおりました。その弾丸が、わたしの胸と頭部にあたったのです。
 しかし、これで良い! これで良いのです。意見を異にするものは、討って良いのです!
 わたしは、クロスボーン・バンガードの旗揚げをしたときに、この仮面をかぶりました。そして、こうして公衆の前にも恥ずかしげもなく、この醜い姿を晒す覚悟をしたのは、わたしと意見を異にする者は、討って良いということであります。しかし、討つのではなく、一時は、わたしと意見を同じくする者がいるのならば、その方々の力をコスモ・バビロニア建国のために、お貸しいただきたい!
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