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『こんなマリみてはいやだ BLACK LAGOON編
“Calm down,two men”』

由乃「やれやれ、時間をはずせばよかったかな、混んでるよ。
 さめないうちに喰っちまおうぜ、な?」
令「喰いたかねえ」
由乃「食べろよ。
 喰えば気分もほぐれるぞ」
令「傘貸せよ、一人で帰るから」
由乃「それじゃ私が帰れない」
令「借りれば」
由乃「そんなわけにはいかないね」
令「…………お前な、やっぱ剣道部やめろ。
 お前にゃ向かねえよ」
由乃「許可したのは、お前だろ」
令「とんだヘマだ」
由乃「どうかな、去年の交流試合で負けなかったのは誰のおかげだ?
 祐巳さんのいうとおりだよ、私に寄りかかってるだけじゃ解決しないこともある」
令「手前な、口のきき方にゃ気ぃ遣えよ」
由乃「喫茶店以来、ずっとそんな感じだなあ。
 あの話か?」
令「知るか。
 その話はするなって言っただろうよ」
由乃「令ちゃん、はっきり言っとくよ。
 私、剣道部やめないよ」
令「聞き間違いかな、クソなめたこと言ってるように聞こえたけど」
由乃「ああそう、ならもう一度だ。
 私は間違っちゃいないし、やめるようなこともない、と言ったんだ」

チャ

令「残念だよ」

チャキ

令「掛け値なし、言うことなしのどデカ地雷を踏んだんだぜ。
 本当に残念だ」

ガキンッ

令「最後に聞いてくぜ。
 墓にゃなんて書けばいい?」
由乃「「暴力バカにつける薬はねえ」って書きな」
令「じゃあな由乃」

バンッ

由乃「見ろよ。
 剣じゃ解決しないこともあるんだぜ」

グ!

令「……っ!」

ガッ!

ガララララッ!

ガシャッ

令「……お前……っ」

ガッ

由乃「お前って言うな。
 私の名前は由乃だ。
 いいか。
 クソッ!
 腹一杯で十分だ、もうたくさんだ!!
 心臓の手術が終わったかと思ってりゃ、今度は部活で女の御機嫌伺いだ。
 こいつはいったいなんの冗談だ?」
令「……てめぇが、チョコザイなこと抜かし──」
由乃「由乃だ。
 チョコザイ?
 ふざけんじゃあねえぞ、バカ野郎。
 手前はなんだよ?
 リリアン女学園、荒くれ者の黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)だろ?
 それがなんだ、口を開きゃ剣道部へ入部させたくない、なんて言いやがって。
 リリアン生の憧れ黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)、なのに手前は妹の部活動すら認めない。
 尻の穴が小せえにも程があるぞ。
 誇りはねえのか、お前の脳ン中にはよ!」

ガシャッ

令「…………っ……綺麗事並べんじゃねえぇ、黄薔薇のつぼみ(ロサ・フェティダ・アン・ブゥトン)!!
 手前にあたしの何がわかる!!
 何がわかんだよ?
 ああ?
 言ってみろよ?
 てめぇみたいな温室育ちにわかることを!!
 どんな暮らしをしてきたか……わかるハズがねぇんだよ!!」
由乃「…………そうだよ。
 わかるはずがない。
 私はお前じゃないからな。
 じゃあ聞くけどよ……お前に私の、何がわかるんだよ。
 どんな暮らしをしてたって、生きてりゃそれなりに辛い目にも遭うもんだ。
 だろ?
 そいつを理解するつもりもないくせに、答えに詰まりゃ都合よく悲劇のヒロインかよ。
 それがお前の一番、卑怯なところだよ!!」
令「うるせえっ!
 都合よくモノ見てんのはてめぇのほうだ、くそったれ!
 ここはな、お前の憧れてるような……東宝の時代劇たあ違うんだよ!!
 何が誇りだ?
 なめんじゃねえぇ!!
 ここを見ろ!
 どこを取ってもクソの山で、長谷川平蔵なんぞ、どこにもいやしねえんだ!!
 バカ野郎!!」
由乃「長谷川平蔵がいねぇなら、長谷川平蔵になればいい。
 泣き寝入りして文句たれて生きてるよりゃ、よっぽどマシな生き方だ!
」 令「……うるせえっ、うるせえチクショウ……マジで殺すぞ……」
由乃「ああ殺れよ。犬みたいに同じところをぐるぐる回ってろ。
 ここで私を殺りゃ、そいつがいい証拠になるさ!」
令「……それしかやり方を、知らねぇんだよっ!」

バキィ!

グィ!

由乃「……令ちゃん、忘れたか、私がここにいるワケを。
 昔からそれこそナイトのように私のことを守ってくれた。
 でもそれは私の存在を盾に強がっているだけだ。
 去年心臓の手術をした時、何かが吹っ飛んだ感じがした。
 何かが吹っ切れた感じがした。
 ラッシュに揺られ、愛想笑いで頭下げて、授業成績に命張ってよ。
 何があっても飲める所と令ちゃん家がありゃ「世はこともなし」そんなの全部が、どうでもよくなったんだ。
 そいつを教えてくれたのは、私を呼んでくれた気づかせてくれたその女が、手術前の頃と同じことを抜かしやがる。
 私にゃそいつが、我慢ならねえ」

バッ

令「……チッ!
 何言ってんだがわかんねぇよくそったれ。
 まったく……本当に面倒なヤツだなお前は。
 長生きできねえぞ、バカ」
由乃「バカなのも苦労すんのも、お互い様だ」
令「お前はあたしの上行くバカだ。
 くそバカばーか」
由乃「怒るぞ!」
令「おう面白れ!!
 どんなふうに踊るか見てやるからよ!!
 かかってこいよ!
 ええ!」
祥子「おい!
 おいコラ!」
令「なんだようるせ……!?」

チャッ!

祥子「……ったく。
 食堂で騒ぎが起こってると思えば、またお前か令!
 コントのハリセンじゃねえんだぞ、刀ってのは。
 人目も気にせずバカスカ斬りやがって。
 火消しになるこっちの身にもなってくれ」
令「そのためにでけぇ封筒集めてんだろ。
 あんたの仕事さ、紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)」
祥子「やるなって言ってんじゃねえ、見えねえ所でやってくれっつってんだ。
 そうする限り、殺そうがヤク売ろうがリンゴ隠しやってようが関係ねえ。
 面倒さえなきゃ私は楽しいデートの予定をキャンセルせずにすむって寸法だ。
 とりあえず生徒指導室に連行するぜ、こっちにも書類ってもんがあるんでな」
令「了解、紅薔薇さま」

ガチャ

令「祥子!
 うちの単車をガメるなよ」
祥子「へらず口を叩くな。
 あんなクソ車はいらねえよ、帰る時に持っていけ」
令「…………なあ……由乃。
 一つだけだ、それを聞いたら面倒はねえ。
 お前、剣道続けて何がしたいんだ?」
由乃「私は──令ちゃんが由乃と同じ道場にいても平気な精神力を養わせてあげる。
 それ以外のどこでもない」
令「……由乃。ポッキーくれ」
由乃「ポッキー? それなら祐巳さんが──」
令「何言ってんだよ。
 くわえてるだろうが」
由乃「ああ!」
令「……ったくよ、今日はひでえ一日だ」
由乃「まったく」
令「……とにかく、帰って寝たい」
由乃「そうだな」
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