>>トップページへ マリいやトップへ

『こんなマリみては……いやじゃないかも
“TRICK編 episode 2 まるごと消えた村”』

志摩子「引いてみい。クラブの9やな」
乃梨子「あ、あっちょるけえよ。スゴイのぅ、お姉は。人は見かけによらんのう」

バシッ

志摩子「実はな、これ好きな人を選べ、な。
、全部クラブの9やねん。
 ええか、お前な、これから、店の公衆電話借りて、私の携帯に電話せえ」

乃梨子「もしもし……誰じゃ?」
志摩子「お前、鼻の穴つなげたろか!」
乃梨子「いや、あの、それで、ウチは何をすればええけんの?」
志摩子「何もせんでええ。このまま繋ぎっぱなしにしとけ。
 そんならな、この携帯から何処にかけようとお前に繋がる。
 お前は何を聞かれても、クラブの9やと言うんやぞ。クラブの9や!
 分かったな」
可南子「お待たせしました」
志摩子「あれ? お前、あの時の」
可南子「ヤギ汁はこちらですか?」
志摩子「偶然やなー。こんな所で会うなんて。
 お前ここでバイトしてんのか? おう、ほならお前、山百合会役員への道はあきらめたんか?」
可南子「ご注文はおそろいですか?」
志摩子「ちょっと」
可南子「おそろいですか?」
志摩子「ええから、ちょっと座れって。
 おまえな、超能力は存在せえへん言うたやろ?
 実はつい最近な、私は自分にテレパシーがあることに気がついたんや」
可南子「それで?」
志摩子「電話越しに人に念を送ることができるんや。今からそれを証明したる。引いてみろ」
可南子「嫌です」
志摩子「ええから、引けや、お前!
 引かな始まらへんねん。……びびっとんのか? このインチキ女!」
可南子「……」
志摩子「おお、クラブの9やな。おお、珍しいカードやな。
 ほんなら今からこん中から  で、私がその人に念を送ってお前が引いたカードを当てさせてみせるから」
可南子「……」
志摩子「どこ行くんや? これ使うたらええやろ?」
可南子「いえ、悪いですから」
志摩子「店の人に迷惑やろお前は! 大きい声出すな、お前。
 ほら、好きな奴選んでええぞ」
可南子「じゃあ、鬼って書いてある佐藤聖(ひじり)さん」
志摩子「"せい"や。佐藤聖(せい)や……03の34……君がかけてくれ」
可南子「……もしもし、佐藤聖(ひじり)さんですか? 藤堂っていう友人が今から念を送るって言ってるんですけど」
志摩子「"せい"や、"せい"。あ、聖さま、実は私、突然自分にテレパシーの能力があることに気がつきましてね。
 今からあるトランプのイメージをテレパシーで送ります。あなたの頭にイメージが届いたらそれが何か答えてください。
 いいですか、いきますよ……よっしゃ」
可南子「もしもし……さて、私が引いたカードは何でしょうか?
 ……なんか、すっごく怒ってますけど」
志摩子「え?」
可南子「途中で番号間違えたんで、一回切ってかけ直したんですけど……」
志摩子「ぬあ! 聖さま? いえ、決してそんなつもりでは……イタズラなんてとんでもない……」
可南子「あの、ご注文は」
志摩子「囮捜査です」

祥子「可南子っ、可南子っ。またまたお待ちかねですよ」
可南子「は?」

可南子「蔦子さま!」
蔦子「紅薔薇のつぼみの祐巳さん、彼女、なかなかいい友達よね。あなたの男嫌いを直してくれたんですって?」
可南子「……」
蔦子「面白い歌を知りたがってたんで、いくつか教えておいたわ」
可南子「用がないなら帰ってください」
蔦子「用があるから来たのよ」
可南子「じゃ、なおさら帰ってください」
蔦子「本物の霊能力者の話、聞きたくない?」
可南子「え?」

三奈子「いるのですよ、この世には。本物の力を持った霊能力者が。
 あなたのお父さんは、その人に戦いを挑んで殺された……」

可南子「鳥居江利子? この人が本物の霊能力者……うそくさーい」
蔦子「山辺という先生は、江利子さまが宝女子村の人たちを消してしまったと言っているわ」
可南子「……」
蔦子「その日、高校に赴任してきたばかりの山辺先生は、村人が誰もいないのに気づいて、あちこち捜し回った。そして、江利子さまと出会った」

山辺「……!?」
江利子「……」

蔦子「江利子さまには、どんな物でも一瞬にして消してしまう力があった」
可南子「……そんな」
蔦子「山辺先生はそう言ってるわ」
可南子「蔦子さまは、信じてるんですか? ホントに?」
蔦子「もう一つあるわ。志摩子さんに江利子さまのことを調べてもらったの。彼女はこの村の出身だった。そして、村の人たちに激しい憎悪を抱いている」
可南子「ぞうを? ……いんどぞう?」
蔦子「江利子さまは高級料亭の一人娘として生まれた。三人男が続いた後に待望の娘の誕生ということで、それは大切に育てられたわ。
 珍しいものに興味があった江利子さまは、超能力に興味を持ち始めたとたん、突然不思議な力に目覚めたらしい。江利子さまが『消えろ』と唱えるとたちどころに物が消えてしまうのよ。物だけじゃなく、痛みとか、病とか、借金とか」
可南子「いいじゃないですか」
蔦子「食べなさいよ、たこ焼きパイ饅頭。ホラ、ホラ、ホラ!
 江利子さまはしばらく霊能力者として活躍した。この世には、目に見える世界とは別の世界がある。それを世間に知らしめようと思ったらしいわ。
 江利子さまは学者やマスコミの前でいくつもの消失現象を演じて見せた。だがある時、それがトリックであることが暴かれ、彼女は大衆の面前で大恥をかいた。
 それまで江利子さまをもてはやしていた村の人たちまでもが、恥さらしと手のひらを返したように彼女を迫害したらしいわ」
可南子「つまり、その時の復讐のために江利子さまは村の人たちを消した?」
蔦子「その可能性はあるわね」
可南子「ほんとうにうそくさーい」
蔦子「……」
可南子「要するに蔦子さま、一人で村へ調べに行くのが怖いだけなんじゃないですか?」
蔦子「……」
可南子「出てってください」
祐巳の声「貧乳なのよ、私は貧乳、ボイン♪
 胸がないのよ、昔はペチャパイ、ボイン♪
 未来のあなた、待ってて下さい、ボイン♪」
可南子「……! 歌って、何を教えたんですか?」
inserted by FC2 system