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『こんなマリみては……いやじゃないかも
“TRICK編 episode 3 パントマイムで人を殺す男”』

祥子「可南子」
可南子「あ、すみません、明日は必ず」
祥子「明日の来ない今日はない。だけど、薔薇の館に来ない明日は、今日で五日目」
可南子「ですから、明日は必ず」
祥子「来られないなら来られないで、それなりの誠意を見せていただかないとね」
祐巳「貧乳なのよ、私は貧乳、ボイン♪
 胸がないのよ、昔はペチャパイ、ボイン♪
 未来のあなた、待ってて下さい、ボイン♪」
可南子「やめろ」
祥子「なあ、ほれ、あんな風に茶道部の部室の障子の張り替えやってくれてんだ」
可南子「……カラフルですね」
祥子「んだ」
可南子「私も後で、薔薇の館掃除やらせていただきます」
祥子「便所もな」
可南子「……」

蔦子「今日、来てもらったのは、他でもないわ」
可南子「何ですか、これ?」
蔦子「この中から一人を選べと言われたら、君なら誰を選ぶ。女性として率直な意見を聞かせて欲しい」
可南子「選ぶ?……なんでっ」
蔦子「コンピューターが弾き出した三人だ。どの男性も甲乙つけがたく私と相性が合うらしい」
可南子「蔦子さま、何やってんですか……」
蔦子「どんな優秀な人間でも、同じ環境が長く続くと、エネルギーが徐々に低下してくるわ。これは由々しき問題よ」
可南子「それって、自分のこと言ってるんですか?」
蔦子「私は優秀な人間と言ったはずよ。他に誰が入るの。
 しかもよ、ある文献によると、セックスは安心して服用できるビタミンのようなものらしい。ビタミンは脳の活性に不可欠だわ」
可南子「セックス?」
蔦子「自分で言うのも何だけど、私は恐らく巧いと思う。いや、巧いはずよ」
可南子「セックスがですか?」
蔦子「この歳まで、ずっと一人で練習を積んできたわ」
可南子「……ずっと一人?」
蔦子「……あ」
可南子「何だかんだ言って、結局はセックスがしたいだけなんじゃないですか。巨乳がさびしいんだっ、エヘヘヘ」
蔦子「やめて! 今、写真の話をしているんのよ。巨乳の話をしてるわけじゃないわ」
志摩子「巨乳なんですか?」
蔦子「いつから聞いていたんですか!?」
志摩子「処女のくだりから少し」
蔦子「……岡井省二ですね」
可南子「一人で練習を積み重ねてきたくだりです」
志摩子「右の男は、チーズをブロックごと齧りそうやな」
乃梨子「左の男は、味噌汁ん中、生卵ぶち込みそうな男じゃのぉ」
志摩子「真ん中は、納豆に明太子を混ぜそうな感じやな。私なら迷わず真ん中や!」
蔦子「……それはいったいどういう?」
志摩子「まあまあ。道草はそれくらいにして……実は蔦子さんにご相談したいことがありまして」
蔦子「何ですか。またつまらない事件の謎解きじゃないでしょうね」
志摩子「つまらないかどうかは、ご覧になった上で」
蔦子「え?」
志摩子「どうぞ」
蔦子「誰ですか?」
志摩子「薬師寺昌光さんと言うんですがね。どうです、美男子でしょ」
蔦子「確かに」
志摩子「あー、先生に気に入っていただけたら話は早い。蔦子さん、彼と一晩過ごしていただけませんか?」
蔦子「いいですよ」
志摩子「はや!」
可南子「……蔦子さまっ。どういうことですか?」
昌光「As you like」
志摩子「お前、何でついて来とるねん。お前、関係ないやないかお前!」
可南子「……わらび餅、好きですか?」
昌光「……わらび餅も?」

蔦子「霊能力で人を殺す?」
志摩子「そうなんです。しかも、三人」

昌光「私はこれから霊能力で三人の人間を殺します」

蔦子「彼女が、ですか?」
志摩子「ええ、そこで彼女は、私達に自分を監禁して、監視して欲しいと言ってきたんです」

昌光「ですから今すぐ私を監禁、監視してください」

蔦子「監禁!?」
志摩子「ええ。私達の監禁状態の中で殺人が行われれば、完璧なアリバイになりますからね」
蔦子「ということは、しばったり、口にピンポンくわえさせたり、ロウソクで……フフッ」
志摩子「蔦子さん、何をお考えで?」

可南子「お座りになったらどうですか?」
昌光「いいえ、ありがとう」
可南子「どっちだよ……!?」
昌光「私はこれから、霊能力で三人の人間を殺します」

蔦子「ロウソク……縛る……亀甲縛り……ヌンチャク……」
志摩子「落ち着いて、落ち着いて、蔦子さん、蔦子さん、蔦子さん!
 カムダウーン、カムダウーン。」
蔦子「もう大丈夫……つまりこういうことですか。
 A地点に監禁されている彼が、距離を隔てたB地点にいる人間を殺す」
志摩子「そうらしいんですわ」
蔦子「ありえないわ」
志摩子「ですよね。我々もね、生徒会の予算で運営してるですから、そういったバカらしい事に関わってる暇ないんですよ」
蔦子「で、私に監禁して、縛れ、と。無料で……」
志摩子「蔦子さん、いつもどこいってるんですか……」
蔦子「……物理学にバカらしさは必要です。
 アルバート・アインシュタインの相対性理論は、アイザック・ニュートンの古典力学を否定したところから生まれたわ。
 しかし、誰もが最初はアルバート・アインシュタインをバカにし」
志摩子「お願いできますか?」
蔦子「しかし……」
志摩子「一晩は長いですよぉ。今まで一人で練習してきた成果が、花開くかもしれませんよ。
 もういっぺん言いましょか? 花……」
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