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『こんなマリみては……いやじゃないかも
“TRICK編 episode 4 千里眼の男”』

新聞配達人「あのぅ……ちょっと」
可南子「……弥七?」
新聞配達人「すみません」

コンコン

可南子「ひっ!」
祥子「ねえ」
可南子「うわー、うわー、か、カベ」
祥子「うるさい! 可南子、あなた、マジックやったことあるわよね?」
可南子「……マジ? ええ、一応」
祥子「一応じゃ困るのよね。ちゃんとビックリさせてもらわないとね」
可南子「ビックリ?」
祥子「優勝者には伊香保温泉一泊旅行がもらえるんだって。ほらここ」
可南子「伊香保?」
祥子「たまには温泉でも行ってのんびりしたいわー」
可南子「……」
宅急便の男「ちわー、宅急便です。印鑑お願いします」

大木「ただ今より、ラドンビックリ人間コンテストを開催します。司会進行は大木凡人が務めさせて頂きます」
可南子「凡さんやるんだ」
大木「本日は、特別審査員として、リリアン女学園写真部副部長の武嶋蔦子さんにお越しいただいております」
可南子「蔦子さま?」
大木「カメラマンとしてのお立場から、ラドン審査の方よろしくお願いします。ラッドーン!」
蔦子「驚きは脳細胞に活力を与えます。ラッドーン武嶋です」
可南子「……ラドン武嶋、仕事選べよ」
大木「では一番手から紹介します。『人間ポンプ』、破壊王女・バキューム加東です!」

可南子「もうあきたよ」
大木「最後は『ゾンビボール』、細川可南子さん!」
蔦子「可南子?」
可南子「……」
客A「うぉー」
客B「足ー」
客C「ブラボー」
可南子「……」
蔦子「……」
可南子「もらった!」

ぷつんっ

可南子「あっ」

ポトッ

蔦子「……」
柏木「細川可南子さん?」
可南子「え?」
柏木「あーあ、切れちゃいましたね、糸」
客A「なんだい、インチキか!」
客B「糸、ついてんじゃねえか!」
柏木「まあまあ、皆さん。この人も一生懸命やってるんですから」
可南子「……」
祐麒「ハイ、注目! 千里眼、柏木優先生です、どうぞ!」
柏木「ではお口直しに、私が本物の超能力を皆さんにお見せしましょう」
可南子「?」
蔦子「?」
柏木「細川さん」
可南子「!?」
柏木「見えます! 小さい頃、あなたはとても大切な物をなくしませんでしたか?
 その時、あなたはとても悲しかった。一晩中泣いてしまった……」
可南子「何をなくしたのか、当ててくださいよ」
柏木「いいでしょう……見えます! それは……お父さん、いやお母さんですね?」
可南子「お母さん?」
柏木「ええ、お母さんが見えます、はっきりと。あなたのお母さんは亡くなっていませんね」
可南子「答えられません」
柏木「え?」
可南子「だってその質問は、ハイとしか答えられないじゃないですか。
 お母さんは亡くなっていてこの世にはいないという意味と、亡くなってはいない、つまり生きているっていう意味、両方取ることができますから」
柏木「……」
可南子「あなたは、ずっとそういう曖昧な質問をして、ここにいるおじいちゃんやおばあちゃんを騙してきたんじゃないですか?」
柏木「亀、金魚、マリモ、ハムスター、かき氷器、豊胸パットー!!」
可南子「!!」
柏木「今、挙げたものは、すべてあなたの部屋にあるものですね? 違いますか?」
可南子「……」
柏木「お望みなら、間取りもお書きしましょうか?
 亀と金魚とマリモはここ、そしてハムスターはこの机の下。かき氷器はこの辺りですね。で、豊胸パットは……」
蔦子「ここの二番目の引き出し」
可南子「見たんですか、蔦子さま!」
蔦子「へへへ」
可南子「こんなのデタラメだわ。インチキ。蔦子さま、帰ろ帰ろ!」

柏木「さあみなさん、思いっきり確認しちゃってください」
老人たち「ハイ!」
老人A「それにしても汚い部屋じゃのう」
老人B「掃除もせんと、だらしがない女子じゃ」
老人C「この乳止めは、貧相じゃのう」
可南子「何するんですか!」
蔦子「ばれたわね、貧乳」
柏木「ちゃんと亀、飼ってるじゃないですか」
可南子「違いますよ、この子は……」
老人A「こりゃ驚いた。何から何まで、先生様の描いた絵と一緒じゃ」
祐麒「みなさん、そろそろ帰りましょうか?」
老人たち「ハイ!」
老人C「貧乳の嘘つき女め!」
老人B「あんたは嘘つきだ!」
柏木「……」
可南子「……?」

蔦子「だらしがない、貧乳の、嘘つき女。あんな屈辱を受けたら、私なら生きていられないわね」
可南子「自信過剰で、巨乳の、盗撮女! でも、どうして私の部屋のことが判ったんだろう」
蔦子「考えられることは一つ。この部屋に入ったことのある人間が事前に教えた」
可南子「この部屋に入ったことのある人、ですか?」
蔦子「心当たりはないの?」
可南子「……あります、一人だけ」
蔦子「男? 君にもそういう男がいたの。いつ別れた男? あ、小林君か。近場でまとめたわね」
可南子「……」
蔦子「私?」
可南子「この部屋に入ったことのあるのは、蔦子さまだけなんです」
蔦子「嘘でしょ! くくくくっ」
可南子「何がおかしいんですか?」
蔦子「くらい女! 女友達もいないの?」
可南子「あ! 一昨日の夜、出たんですよ」
蔦子「桃太郎侍か?」
可南子「違いますよ、幽霊」

パッ(部屋の明かりが消える)

蔦子「な、何?」

コンコン

可南子「また?」
??「寒い……寒い……」
蔦子「寒い? 暑い、暑い、暑いだよね?」
可南子「奴ですよ。決まってます」

ひゅ〜(と火の玉)

可南子「で、出たー!!
 ………………あれ?
 あっ……!?」
祥子「今日も来なかったわね、薔薇の館」
祐巳「たたりじゃー、たたりじゃー! ボイーン!」
可南子「うるさい!」

可南子「ちょっと、二人で何をなさってるんですか!」
祥子「学園祭の仮装大会の練習してるのよ」
祐巳「ボイン」
可南子「うるさい!」
祥子「このね、衣装を揃えるのにどれだけかかっていると思ってるの」
可南子「知らないですよ」
祐巳「ボイン」
可南子「お姉さま!」
祥子「この火の玉だってね、タダではないのよ。すっごく苦労して見つけてきたんだからね」
祐巳「ボイン」
可南子「う、う、もううるさいな、一回一回」

蔦子「しかし、どうしてこんなものまでぴったりと透視できたのかしら……?」

プルルルルルッ

蔦子「はい、もしもし」
蓉子「あの、細川さんのお宅じゃ……」
蔦子「そうですが、どちら様でしょうか?」
蓉子「……どちら様って。あなたこそ、どなた?」
蔦子「リリアン女学園高等部二年松組写真部副部長の武嶋蔦子ですが」
蓉子「ああ、写真部の蔦子さん?」
蔦子「二ヶ月後には部長に」
蓉子「へぇー、部長に」
可南子「まったくもう、普通やりますか、あんなこと! 来て欲しいなら来て欲しいって言えばいいじゃないですか! やり方が陰険ですよ、陰険!」
蔦子「印画紙用現像液はコレクトール。フィルム用現像液はスーパープロドールと言いまして……」
可南子「何やってるんですか、蔦子さま!?」
蔦子「うるさい! 今、大事な話をしているのよ。静かにしてなさい! いいですか、蓉子さま。印画紙はなぜ印画紙というご存じでしょうか?」
可南子「ちょっとかして下さい! もしもし?」
蓉子「ああ、可南子? いい人じゃない、蔦子さん」
可南子「蓉子さま?」
蓉子「いい、可南子。服を脱ぐ前は必ず電気を消しなさい。それでね、胸はこう……腕を組んで」
可南子「ちょっと何言ってるの、蓉子さま。違うわよ、全然。蔦子さまはただの知り合いです」
蓉子「知り合い? ただの?」
可南子「本当にただの知り合いなんですってば」
蔦子「ねえ、代わってよ。写真の話がまだ終わってない」
可南子「うるさい、蔦子!」
蓉子「えっ!?」
可南子「それよりどうしたの? 蓉子さま。何かありました?」
蓉子「あ、うん、それがね。私、嫌な夢を見たのよ。すごく嫌な夢」
可南子「夢?」
蓉子「可南子がね、誰かに連れてかれて、どこかへ行っちゃうの」
可南子「何、それ?」
蓉子「可南子、何か変わったことない?」
可南子「大丈夫、心配しないで」
蓉子「そうよね、私どうかしてたわ。蔦子さんがいるんだし。それじゃ、蔦子さんによろしくね。電器消すのよ」
可南子「だから違うって!」
蔦子「なかなかいい先輩だったわよね、蓉子さまって」
可南子「何言ってるんですか? 人んちの電話に勝手に出ないでくださいよ」
蔦子「鳴っている電話に出ないという感覚は、もよおしているのに出せないという感覚に非常に似ているのよ。とても我慢できたものじゃない」
可南子「それでも我慢するの! 常識じゃん!」
蔦子「誰もデンワ。ジュワッキ! ビビビッ」
可南子「うっ、やられた〜」
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