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『こんなマリみては……いやじゃないかも
“王子サマになりたい!編”』

祐巳(ここリリアン女学園生徒会"山百合会"では、学園祭シーズンを間近に控えて、演目の配役決めの真っ最中です)
聖「で、小人役は福沢祐巳。
 ツーカンジでみんなやるぞー!」
祐巳「納得いきません!!」
聖「ん? なに祐巳ちゃん、文句あるの?」
祐巳「大アリですっ! 白薔薇さま!
 配役を一方的に決めるなんて不公平です!
 やりたい役もできないじゃないですか!!」
聖「って言われてもねー。
 んじゃ、参考までに聞くけど。
 何役がやりたいワケ?」
祐巳「もちろん、王子様役です!!」
聖「……」
江利子「……」
蓉子「……」
令「……」
聖・江利子・蓉子・令「あはははははは」
聖「祐巳ちゃん、面白ーい!!」
祐巳「なっ、なんで笑うんですか!?」
祥子「祐巳」
祐巳「さっ、祥子さま!」
祥子「少し考えればわかると思うけど、白雪姫役は私よ?
 あなたは少し背が小さいのよ。
 気持ちはわかるけどね。
 私も本当はヒロイン以外の役がやりたいし」
聖「何でー? ピッタリなのに。
 それに、身長もそうだけど祐巳ちゃんは、演技が下手ってのもあるかなー」

ぐさっ

祐巳「うっ」
祥子「ま、そういうことだから。
 与えられた役をがんばって演じましょう」

祐巳(でも私、祥子さまが白雪姫役だから王子役をやりたいのです。
 昨年のリリアン女学園学園祭での山百合会の舞台。
 祥子さまのシンデレラが忘れられません。
 そりゃもうメチャクチャ綺麗なシンデレラで、私は一目で恋に落ちてました。
 祥子さまのお姫様を相手に王子役をやるのが私の目標なのです!!
 ま、今回は祥子さまの言う通りに小人役をがんばることにしよう!)
聖「ゆーみちゃーん」

ぽすっ

祐巳「ん!?
 白薔薇さま……? これは一体……何ですか?」
聖「おおっ! 可愛い!!」
祐巳「は?」
聖「似合ってるわよ、その小人の帽子!!」

ぎゅっ

ぎゅうっ

江利子「あっ、ずるい!! 私もっっ!!」
蓉子「あっ、私もー!!」
令「ゆみちゃん、かわいい!」
聖「私ごと抱かないでよ!」
祐巳「ちょっ……白薔薇さまたち……っ」
祥子「お姉さまたち、ジャレてないで練習しますわよ!」
祐巳(祥子さま……)
聖「ねー、ねー、祐巳ちゃんの帽子、可愛いと思わない?」
祥子「……別に」
聖「私たちが祐巳ちゃんに抱きついたから羨ましいんでしょー」
祥子「白薔薇さまと一緒にしないでください」
祐巳(白薔薇さま……)
聖「そんじゃ、始めますか」

聖「祐巳ちゃん!」
祐巳「はっ、はい!」
聖「それじゃ棒読み!!
 気持ち入れてもう一回!!」
祐巳「『おおこれはなんて綺麗な娘なんだ』」
聖「むー……ダメね。
 祐巳ちゃんは台詞に気持ちが入ってないから、台本を『読んじゃう』んだなー」
祐巳「は、はあ」
聖「じゃ、祐巳ちゃんの出る場はとばしていくわよ」
祥子「『まあ! 美味しそうなリンゴ!!』」
祐巳(す、すごい!! みんなは覚えているんだ……!!
 私もがんばらなくちゃ!!)

祐巳「よし! 居残り自主練やるぞ!!
 えーとまずは……。
 『……だよ、白雪姫』」
祥子「……?」

ガラっ……

祥子「祐巳」
祐巳「祥子さま!! 帰ったんじゃ……」
祥子「私は忘れ物を取りに戻ったの。
 そういう祐巳は一体何を……」
祐巳「? 何ですか?
 私の顔に何か……はっ。
 ……おかしかったら笑っていいですよ……」
祥子(まだ、かぶってる……)

ぷくくく

祥子「いや……その……にっ似合ってるって!」
祐巳(あ、笑った。帽子かぶっててよかったかも)
祥子「へえ、自主練ね。
 ちゃんとやる気になってるのね祐巳」
祐巳「はい!」
祐巳(わーい、ほめられちゃった)
祥子「来たついでに、私も少し付き合ってあげるわ」
祐巳(え!! やったー!!)
祐巳「いいんですか!?」
祥子「いいわよ。じゃあ、二幕二場から……」

聖「おおっ、大分よくなったねー!!
 昨日までとは別人だよっ!!」
祐巳「ありがとうございます!!」
祥子「よかったわね」
祐巳「はい!!」
令「たどたどしい台詞の祐巳ちゃんも可愛かったのにねー」

ぎゅっ

令「!?」

スパン!

祥子「まったく……」
聖「まー、上手いにこした事はないわよね」
祐巳「じゃあ私、王子役もできるんですか?」
聖「いやー、そりゃまだまだだなぁ」
祐巳「えーっ」

祐巳「今日も練習に付き合って頂いてありがとうございました!!」
祥子「ええ」
祐巳(祥子さまに自主練見てもらったり、一緒に帰ったりで、最近なんかラッキー)
祥子「ねえ祐巳、ひとつ聞いていいかしら?」
祐巳「なんですか?」
祥子「なんでそんなに王子役がやりたいの?」
祐巳「えっ、そ……それは……」
祐巳(祥子さまが演じる姫の相手役が王子様だから……なんて言えないよっ)
祐巳「や、やっぱり王子役ってかっこいいじゃないですか!!
 活躍したりして!!」
祥子「そうでもないわよ。
 今回の『白雪姫』の王子役なんて最後しか出番がないし、演劇の王子とかってそういうの多いわ」
祐巳「あはははははー……そうですねー」
祐巳(王子役って、出番少なくても姫役との接近シーン多いんだもん)
祐巳「そういう祥子さまは、どうして姫役をよくやるんですか?」
祥子「あっ、あれは別に私がやりたいわけじゃないわ!」
祐巳「……嫌だったんですか……?」
祥子「誰が好んで、姫役なんかやるものですか!!」
祐巳「でも私……舞台での祥子さまを初めて見て、すごく綺麗だったから、それで好きになったのに!!」
祥子「!?」
祐巳「!!」
祐巳(言っちゃったー!!)
祐巳「いや、あの……さ……祥子さまのやるお姫様のファンなんです!」
祥子「──ふーん。……ねえ、祐巳」
祐巳「なっ、何ですか!?」
祥子「あなた最近頑張ってるし、この舞台が成功したら祐巳の言う事なんでも一つだけ聞いてあげるわよ」
祐巳「え!? ほ、ほ、ほ、本当ですか!?」
祥子「ええ! 好きな物でも奢ってもいいし。なんなら、姫役の恰好で、キスしてあげてもいいわよ」
祐巳「!!」
祥子(あっ、可愛い)
祐巳「それっ、二言はないですね!?」
祥子「え? あ……いや……うん」
祐巳「私、頑張ります!! 約束ですよ!!
 それじゃ、これで失礼します!!」
祥子「あ……ああ、気を付けて……。
 …………まずいわ……本当なの私……」

祐巳(やったー!!
 私、絶対完璧な小人を演じてみせる!!
 そして、祥子さまとの約束を果たしてもらうんだ!!)

「学園祭当日」
祐巳(きっっ、緊張してきた……まずい……)
聖「あと10分ー!!」
祥子「どうしたの、いつもの元気は?」
祐巳「祥子さま!! ……可愛いですね」
祥子「……祐巳もね。お客がいるから緊張しているの?」
祐巳「はい……」
祥子「そんなの幕が上がったら暗くて何も見えないわよ」
祐巳「そうなんですか?」
祥子「そう、だから練習中だと思えばいいの。それに、キス……するんでしょ」
祐巳「はっ、はい!! 頑張ります!!」
祥子(……簡単な子……そこがかわいいんだけど)
放送部「これより山百合会『白雪姫』の上演を行います。みなさまごゆっくり……」

祐巳(これには祥子さまとのキスがかかってるのよ)

江利子「「鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだあれ?」」

祐巳「「おお!! これは……なんて美しい娘なんだ!!」」

祐巳(緊張している場合じゃないわっっ!!)

聖「祐巳ちゃんも上手くやってるわね!」
令「ええ」
祐巳「「じゃあ、くれぐれも気を付けるんだよ」」
祥子「「はい」」

ふーっ

祐巳(なんとか、この場面も切り抜けた……あとは最後だけ……)
聖「──で、クライマックスなんだけど」
令「何?」
聖「王子は姫に本気でキスするのよ!! いいわね」
祐巳(え……!?」)
令「いやですよ〜〜っ、後で祥子に殺されるの私なんですよ」
聖「その方が盛り上がるわ! "お姉さま"命令よ!!」
令「えっ? "お姉さま"って……」
祐巳(王子と姫が、キス……!?)

ガーン……

祐巳(祥子さま!!)
令「「これが死んでいるなんて信じられない!!」
 「美しい娘よ」」
祐巳(私はこのまま、目の前で祥子さまがキスされるのを黙って見てるつもりなの!?
 いくら祥子さまとキス出来るからって、これを見た後でなんて……そんなの……嫌だー!!)
祐巳「お前なんかより!」
令「!?」
祐巳「私の方がずっと好きだ!!」
祥子(何事……?)
令(お、おい祐巳ちゃん……)
祐巳「お前に渡すくらいなら、私が……!!」

聖「おっ!」
放送部「!!」
観客「!!」

唇を重ねる祐巳と祥子

シーン……

祥子「……」

ワァァァアァァァァ!!

祐巳(しまった舞台……!!)
祥子「……」

祐巳「すみませんでした……!!
 舞台をメチャクチャにしてしまって……」
聖「面白かったから、それでいいって!
 じゃ、じゃあ私たち後夜祭行ってくるわ」
祐巳「あの……す、すみません祥子さま……私……」
祥子「!」

今度は祥子から祐巳にキス

祐巳「さささ、祥子さま!? なんで……」
祥子「約束したでしょ?」
祐巳「え!? だって……」
祥子「あれだけ盛り上げれば成功よ。
 それでも、姫役の恰好じゃないのは減点ってところね」
祐巳「! ありがとうございます!!」

祐巳(結局私は小人のままでしたけど、王子サマになるよりもーっとイイコト出来たからいいんだ♥)

祥子「……来年の学園祭が上手くいったら、キスよりすごい事してあげましょうかしら?」
祐巳「えっ!?」

「余談」
令「おーすごい写りがいいねえ。キスシーンの写真」
江利子「近所の女子校に高く売れそうでしょ」
蔦子「実は、ビデオも撮ってありますわ」
聖「でかした!!」
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