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『こんなマリみては……ちょーくせになりそう
“TRICK2 episode 1 六つ墓村編”』

可南子(私、細川可南子は超実力派の山百合会幹部だ。
 お姉さま、福沢祐巳はリリアンを代表する紅薔薇のつぼみ。
 そんなお姉さまの影響で、私は「ああはなるまい」と手先だけは器用になった。
 人気だけのアイドルみたいな薔薇さまとはわけが違う。
 ひとたび私がステージに立てば、たちどころに生徒は…………消えている。
 ……おかげで今日も仕事は捗らず、このボロ薔薇の館へ戻ることになる)
祥子「可南子! 可南子!」
祐巳「プー(鳴る風船の音)」
祥子「山百合会主催のクリスマスイベントの企画書、いつになったら出してくれるの?」
祐巳「プー」
可南子「……!」
祥子「いるのは分かってんだけどね。
 ……? 変ね、帰ったと思ったんだけど……」
祐巳「プー。私、確かに見ました」
可南子(何という進歩のない日々)
祥子「あ、そうそう」
祐巳「プー」
可南子「……!」
祥子「何だ、いたんじゃないの」
可南子「ごきげんよう」
祥子「こっちだよ」
可南子「ああ」
祥子「バカ……これ、あんたに手紙」
祐巳「プー」
可南子「……?」

プルルルッ プルルルッ

可南子「もしもし……もしもし……どちら様ですか?」
??「私はあなたに幸運をもたらす者だ」
可南子「何かの勧誘ですか。切りますよ」
??「待ちなさい。私は、あなたの心を読むことができる。今からそれを証明して見せよう。
 好きな数字を一つ思い浮かべなさい。何でもいい。それを2倍して、10を足しなさい。それを2で割って、そこから元の数を引いて。
 さあ、いくつになった?」
可南子「5」
??「手紙が届いているだろう。開けてみなさい」
可南子「……」
??「私には、おまえの運命など、全部お見通しなのだ。
 まもなくお前に一人の人物から電話がかかって来る。彼女の言う事に決して逆らってはならない」
可南子「あの、もしもし……」

プルルルッ プルルルッ

可南子「もしもし……」
蔦子「ああ、いたの。久しぶりね」
可南子「はい?」
蔦子「二年松組の武嶋蔦子よ」
可南子「どこが久しぶりですか。さっきの変な電話、あなたでしょ」
蔦子「……? 何の話?」
可南子「しゃべり方が一緒です」
蔦子「……! そんなはずはないわ。全然違っていたはずよ」
可南子「やっぱりあなたですか」
蔦子「……」
可南子「元の数を2倍して10を足して2で割って元の数を引いたら、何を選ぼうと答えは5になるじゃないですか」
蔦子「……プー(鳴る風船の音)」
可南子「……じゃ」
蔦子「待ってよ。いい話があるのよ」
可南子「おとこわりしますっ!!」

可南子「どういう風の吹き回しですか。温泉だなんて」
蔦子「知り合いが旅館をやっていてね、一度ぜひ来てくれっていわれてたのよ」
可南子「何か怪しいですね」
蔦子「……」
可南子「蔦子さま、やっぱり何か隠してますね」
蔦子「分かる?」
可南子「分かりますよ」
蔦子「実は先月、部長になったのよ。リリアン女学園写真部部長、武嶋蔦子」
可南子「……」
蔦子「心配しないでよ。部長になったからといって、私は偉そうにするつもりはないのよ。
 君の事も、同じ一個の人間として扱うつもりよ」
可南子「そういう言い方が、すでに傲慢じゃないですか」
蔦子「もう一つ隠していた事があるわ」
可南子「……?」
蔦子「このたび、本を出版した」
可南子「は?」
蔦子「鞄に入ってる。見ていいわよ」
可南子「『どすこい、山百合会』」
蔦子「どんと来い、よ。今まで解決した事件の事をいろいろ書いておいた、自伝的著作と言っていいわ」
可南子「『私に言わせれば、すべてのホラー現象は、ほらに過ぎない』……引き込まれる出だしですね、字が大きくて読みやすい」
蔦子「でしょう」
可南子「『超常現象を恐れてはならない。Don't be afraid! どすこい、山百合会!』」
蔦子「どんと来い、よ。ははははは」
可南子「よく恥ずかしくないですね」
蔦子「サイン入りよ。一冊持っていっていいわよ」
可南子「ありがたく……いただきません」

可南子「みずかみそう。なんか人ん家みたいじゃないですか……ここ、本当に温泉なんてあるんですか?」
蔦子「ある」
可南子「ガイドブックには、載ってないですけど」
蔦子「秘湯よ」
可南子「ひとう。伊豆半島なんだ」
蔦子「それは伊東!」
可南子「……は?」
蔦子「……わざとやってるでしょう。秘密の湯と書いて秘湯。伊東でも亀頭でも死闘でもないわっ!」
可南子「ああ」
蔦子「私にギャグ飛ばして何が嬉しいの? 好きなの、私が?」

『心にやましい者は立ち入ってはならぬ。背中わらしがとりつくぞ』
可南子「背中わらし? ……?」

バタンッ

可南子「……! すみません! すみません! 開けろーこらっ。
 ……? 誰? 誰かいるんですか?
 ……! え?
 誰? 離せ! 離せったら! ……?」
源助「何をなすっているのです。大丈夫ですか」
可南子「……?」
源助「あぶないところでした。ここは、扉のたてつけが悪くて。4年前にも一人、閉じ込められたショックでお亡くなりになった方が」
可南子「あの、中に誰かいたような……」
源助「はあ? 誰もいませんよ」
可南子「でも、確かに後ろからこう、すごい力で……」
源助「背中わらしだ……」
可南子「……?」
源助「そこに張り紙があったでしょう。この地方に昔から出没する妖怪です。姿はこんな小さな子供ですが、やましい心の持ち主を見ると、後ろからこうやって……」
可南子「やましいって、私、やましい事なんか、何も考えていません」
源助「では、こんな所で何をなさっていたのです」
可南子「この旅館に隠された名湯があるって聞いたもので」
源助「……! な、なぜ、それを」
可南子「……?」
源助「なるほど。そういう事ですか。あなたもやはり、今回の事が四百年前の事件と関係あると思っているのですね」
可南子「……?」
源助「こちらへ、どうぞ」

春日「まあ、素敵なご本を。こんな所でリリアンの生徒にお会いできるとは思いませんでしたわ」
蔦子「いやあ、それほどでも。ま、とはいうものの、本の方はもう全国で二千部以上は売れているらしくて」
春日「では、私たち、ライバルというわけですわね」
蔦子「……?」
春日「実は私も、本を出しておりまして。栞」
栞「はい先生」
春日「おまえ、私より可愛くないか?」
栞「すいません」
春日「これが、たしかそうデビュー作でしたかしら」
蔦子「『いばらの森』、須加星……え! あの少女小説家の須加先生」
春日「先生だなんて恥ずかしい。私の本なんて売れてもせいぜい百万部というところですわ」
蔦子「……」
春日「実は、私もこの旅館に興味があって来たんですよ。毎年同じ日になると、必ず人が死ぬ。蔦子さんとどちらが先に謎を解くか、面白い勝負になりそうですわね」
蔦子「……」
春日「あら、蔦子さんの手、ずいぶんと大きいですわね」
蔦子「先祖は天狗で、子供の頃、通信教育で空手をやってまして」
春日「頼もしいですわ。この旅館にはね、とんでもない秘密があるんです。来た瞬間に分かりました。蔦子さんも、もうお気づきとは思いますが」
蔦子「も、もちろんです」
春日「……」
蔦子「……?」
春日「蔦子さん、面白い方」
蔦子「は?」
春日「嘘をつくとすぐに分かるんですもの。顔にウソと書いてあります。おでこのこの辺に」
蔦子「はあ?」
春日「ねえ、栞」
栞「はい」
春日「おまえ、私より可愛くないかっ」
栞「すいません」
春日「……あとでな」
栞「……」
蔦子「……」
春日「一度、鏡をごらんになった方がよいですわよ。
 ちゃんと手で隠して。人に見られたらまずいですわ」
蔦子「はい」

可南子「どういうことですか。毎年、同じ日に来ると人が死ぬって」
蔦子「……」
可南子「今晩午前0時から明日の夜0時までの間に誰かが死ぬ。蔦子さんと私はそれを防ぐためにここへ来たってことになってますけど」
蔦子「ああ、言わなかったっけ」
可南子「……」
蔦子「最近、不思議な現象が起きると、何故かみんな私のところに話を持ってくるのよ。一体、誰が言いふらしているんだか」
可南子「『どんと来い、山百合会』なんて本を出しているからでしょ。帰ります」
蔦子「ちょっと」
可南子「……?」
蔦子「一つ聞きたい事があるのよ。私は嘘をつくと必ず顔にウソという文字が現れると言われたわ。本当なの?」
可南子「……はい」
蔦子「何で今まで黙っていたの!」
可南子「黙っていた方が何かと便利じゃないですか。
 じゃ、帰ります」
蔦子「今日はもうバスは無いわ。バスは一日一便よ」
可南子「またいい加減な事を。バスは駅まで毎日五往復してるって番頭さんが言ってました。
 …………五往復……御往復?……ああ!」
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