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マリア様がみてる 吼えよペン

──東京、近郊。
私立リリアン女学園、高等部校舎。
──の脇の階段を上がる!
新聞部部室!!
ここで一人の熱血新聞部員が、日夜命がけで原稿と格闘しているのであった!!

この少女──二年松組山口真美!
新聞部部長にして、週刊リリアンかわら版編集長!
──普段は、どこにでもいるごくありふれた女子高生の一人である!!

真美「これであと何枚だ!?」
哲子「えーと……」
康恵「ちょっと待ってください!! 1、2、3……」
哲子「20、21、22。現在22枚!! 全32ページ中、真美さまの手つかず10枚!! 完成誌面0!!」
真美「……。みんな聞いてくれ……。
 私は、かつて今まで『間に合わない』と弱音を吐いたことなど一度もない……。たとえ締め切りまであと1日しかなく……24ページほどの原稿が白いまま残っていたとしてもだ……。
 逆に『あと1日で24ページ書いちゃっていいの?』とか、『24ページの原稿料が1日で稼げるラッキー!!』ぐらいの考えで乗り切ってきた!!」
康恵(話だけじゃない! この人はそういう人だ!)
哲子(──いや、できれば毎回1日でやっつけたいと持っている人だ)
真美「──しかしだ、このさいはっきり言おう!! 今回は難しいしかもしれんっ!!」
哲子「あれっ弱音か!?」
真美「いいや『かもしれん!?』だ!! まだはっきり言ってないぞっ!!」
康恵「この期に及んで未だ負けを認めないとは!!」
真美「君たちもそうだろうが……。さすがにこの連日、『期末試験前』進行に体がついてこなくなってきている……!!
 腕の方はなれてきて、超ハイスピードでペンが入るのだが……『決め』の1面見出しが……このテンションでは……どうにも『決まらん』のだ!!
 じつは……そこに貼ってある完成誌面すら、実は手直ししたいくらいなのだっ!!」
哲子・康恵(……なんとなくわかる!!)
真美(……う。や、やっぱりそうだとおもったなっ、こいつらっ!? くっ……否定してくれればよいものを!!)
真美「作戦会議だっ、薔薇の館へ行くぞっ!!」
哲子「い、行くんですか!?」
康恵「少しの時間でももったいな……」
真美「気分転換して再出発するのだっ!!」
哲子「え、ええーっ、大丈夫なんですかーっ!?」

薔薇の館 4:05 A.M.

康恵「さて! 紅茶でも飲みながら考えますか!?」
哲子「真美さまはいつものオレンジペコーで……真美さま!?」
哲子(よ、様子がおかしいわ……!!)
康恵(ま、まさか、『ええい、もうどうにでもなれモード』に入ったのでは……!?)
真美「たとえば……ドラえもんのタイムマシンに乗ってだな……」
康恵(なっなぜここでドラえもん!? なぜ!? 『タイムマシン』でいいのに!)
哲子(わざわざ著作権を気にしなければならない引用を!?)
真美「来月の期末試験最終日に行ってきたとする……このリリアンかわら版が配布されていないと思うか!?
 そうだろう……私もそう思う……だから……きっと──大丈夫なんだ!! 苦しいのは今だけなんだよ!! きっと!!」
康恵「おおっ」
哲子「──と言いながらなんか腰から崩れ落ちていくわ」
真美「……来月……もしも私の新聞が配布できなくても……この世の中にゃ何の影響もありはしまい! 同じように日は昇り日は沈む! 犯罪はあとをたたず一歩一歩高齢化社会へと進んでいく……! ちっぽけな新聞一つ、何も変えることはできやしない……非力なんだよ……! だから書いても書かなくてもいいんだよっ!!」
哲子「ああ……どんどん真美さまがダメになっていくわ!」
康恵「危ないっ!!」
哲子「真美さまっ! 未来は変えられるんですよっ!!」
真美「!?」
哲子「真美さまの新聞が、たとえば一人の犯罪者をつくるのを止めてるかもしれない。一人の命をどこかで救ってるかもしれない。一人の命を救うということはですね! 『無限の未来を救う』ということなんですよっ!!
 『救急戦隊ゴーゴーファイブ』からの引用ですが!!」
真美「おおっ、子供番組から学ぶ女!!」
康恵「真美さま!!」
真美「おうっ!!」
↑今の引用で、かなり立ちなおっている
康恵「──それはともかく、原稿が間に合わないんですねっ!!」
真美「ああっ、急に現実へ!! ……だが、たしかにそのとおりだ……現実に、……物理的に考えてみると、『無理』なのだ!! 物理的に何とかせねばなるまい!!」
康恵・哲子「……!!」

その後彼女らは、数々の同級生に電話しまくった、が、やはり同時期忙しいのか、どこも一緒なのであった……。

哲子「いろいろ友達に電話してみましたが」
康恵「一件もダメですね」
真美「くう……先月調子に乗っていろいろな仕事を引き受けてしまったために……!!」
康恵「真美さまは断るのが下手なんですよ。ていうか、依頼されたときは『大丈夫できる』って思っちゃうんでしょう?」
真美「うう……なんかできそうな気がするのだ……! そのときは……!!」
康恵「写真部の新人歓迎会なんかも、こんな状況で入れちゃって……!」
真美「あ、あれは……写真部との友好的な関係を築く為に必要だと思ったのだが……準備やら後遺症やらで、結局3日間つぶしてしまって……!!」
真美(まてよ……写真部……!?)

蔦子(ようこそいらっしゃいました。写真部部長の武嶋蔦子です。こちらが、新入部員の作品です)
真美(それは?)
蔦子(ここに貼ってあるのは、新入部員の自己紹介メッセージですね)
真美(ほう! 私の新聞が好きとは……いざというときには手伝ってもらおうかな!!
 いざというときには!!
 いざ!!
 いざ!! というときには!!)

哲子「おおっ!?」
康恵「真美さまが動いたわ!!」
真美「二年松組の山口真美ですが、写真部の武嶋さんを……そう!! ごきげんよう!! 真美です!! ご無沙汰して──それはそうと、ぶしつけなお願いなんですが、私のファンだという部員で、活きのいいのをぜひ一人お借りできませんか!?
 今!! そう……今すぐにですっ!! すぐにタクシーでよこしてくれっ。大至急だっ!
 ──領収書はもらっておくように……。そう! 『リリアン女学園新聞部』の名前でだ!!」
康恵「問題解決ですねっ、真美さま!」
哲子「でも、たった一人でいいんですか!?」
真美「心配するな……まず一人! 学習塾が終わりしだい、もう二人をまわしてくれるそうだ!! いける!! いけるぞっ!! これで時間のかかる仕上げは安心だ!!」

──4時間経過

真美「……来ない、来ないぞっ、何やってるんだっ、助っ人はっ!!」

ギャアァァーンン シャアァァババ

シャアアアァァァッ (←自転車で全力疾走)

にゃー(←目の前をゴロンタ)

英雄子「むっ!!」

ガッ(←あっ!)

キキッ ガッシャァァ(←盛大にこけた……)

……ムクリ(←でも、起きあがる)

英雄子「よしっ、右手は大丈夫だわ」

ガッ ジャッッ ギャアアアァァァ(←再び自転車をこぎ出す)

バンッ!!

英雄子「おそくなりました!! 写真部から来た……前杉英雄子ですっ!!」
康恵「……」
哲子「……」
真美(……初日から遅刻とは……いや、何も言うまい!!)
真美「よく来てくれた!! 私が山口真美だっ。急で悪いが、ひとつよろしくたのむ!!」
英雄子「あ……はっ、はい!」
真美「ところでタクシーで来るようにと、連絡しておいたはずだが……?」
英雄子「すみません、自転車で来ちゃいました……! タクシーで行くほど遠くないので……」
真美「う……うむまあいい……そこが君の席だ! 道具はひとそろえそろっている。とりあえず、原稿の校正とレイアウトを集中的にやってもらいたいのだが……」
英雄子「わかりましたっ!」
真美「ようし……ではここに山になっているやつを、片っ端からかたづけていってくれるか!?」
英雄子「はいっ!」

ハアッ ハアッ ハアッ ハアッ

英雄子「……」

ガクガクガクガク

ハアッ ハアッ ハアッ ハアッ

ブル ブル ブルル

ピクッ

康恵(なんだ、この不吉な予感は……!?)
康恵「待ていっ!!」
英雄子「!!」
康恵「この震えた腕で、赤ペンを入れようと言うの!? 落ち着きなさい……! えーとなんていったっけ、名前は……」
英雄子「前杉英雄子です!」
康恵「そうだ英雄子さん! 気持ちが前に出過ぎよ!! ヒロコというのはどう書くのかしら?」
英雄子「英雄と書いてヒロです」

ピクッ

康恵「それはヒロじゃないわ……ヒーローの読むのよ!!」
英雄子「ですが、ヒロというんです!!」
哲子「いい名前だわ……だが……『本物のヒーローというのは自らの弱さを認めたときになる』もんじゃないのかね!? 『激走戦隊カーレンジャー』からの引用だが!!」
英雄子「う……うっ」
真美「そうだ哲子の引用のとおりだ。その手では、大事な原稿など、手がけられるものではない……」
英雄子「で……でも。すでに半数以上手がけちゃいましたっ」
真美「なにいっ!?」
哲子「あっ、あ、ああっ」
康恵「あああーっ!」
真美「……き……君は、どうやら今、レイアウトに移れる状況ではないらしいな……!!」
英雄子「すいません」
真美「ちょうどそんな君にたのみたい仕事がある!!」
英雄子「はいっ」
真美「この場所を取材して欲しいんだが、実際に行って写真を撮ってきてくれないか?」
英雄子「はいっ」
真美「場所はここ……さまざまな角度から、何枚も……少し多すぎるくらい撮ってきてくれ!」
英雄子「わかりました!!」
真美「ここを舞台としてかつて殺人事件がおこり、犯人ともゆかりのある場所であるから、360度ぬかりなくわかるように撮ってくれよ!!」
英雄子「行って来ますっ」

シャアァァァァッ

康恵「……」
哲子「……」
真美「……」
康恵「……行きましたね」
真美「あ……うん……」
哲子「ヒーローか……いい名前ですね」
真美「うん……」
哲子「……しかし本物のヒーローになれるかどうかは、これからですね!!」
真美「あ……え……う、うん……そうだな」

ピッピッピピ プルルルッ

真美「あ! 山口ですが……蔦子さんお願いします……。はい……あのそれで……やっぱりあと2人、できるだけ早めに……できませんか。タクシーでお願い……!!」

シャアア

ザァァアアアアアー

真美「おそいっ、何をやってんだ、ヒロの奴は!? どこまで写真を撮りに行ったんだっ!!」

プルルルルルッ

哲子「はい、新聞部……。真美さま! ヒロからです」
真美「おうっ、かわれっ! 何やってんだヒロ! 早くしないと30分プリントの店が閉まって……うん? 何? ちょ、ちょっと待て。よく聞こえん。ラジオのボリュームを下げてくれっ」
哲子「はいっ!」
真美「……? ……!? ……!! わかったヒロ……ここへは直接戻るな……君の携帯の番号はっ!?」
康恵「どうかしましたか、真美さま」
哲子「ヒロが何か!?」
真美「あいつが殺人現場の資料を撮りに行ったら……実際に……やっていたそうだ……本物が!」
康恵「な……何をですか!?」
真美「……」
康恵「さっ……殺人事件を……ですかっ!!」
真美「つい、チャンスだと思って……シャッターを切りまくったらしい……!!」
康恵「うわあああああーっ!!」
真美「それで、何者かに追われていると……」
哲子「どっ、どうするんですかっ!? ここに来られたらコトですよっ!!」
真美「それはわかっているっ!! 隣の部屋に紙面を並べろっ!!」

バババババァッ

真美「完成間近のAランクはこっちだ!! まだしばらく手の掛かるBランクはこっちだ!!」
哲子「原稿しかできていないCランクはこっちですね!!」
真美「……よし……よし……!! とりあえずラスト10ページ分もレイアウトだけだから、私がいなくても大丈夫だな……! ラスト10ページも一応原稿だけは出来上がっている! いざというときは、想像で原稿を書いてくれい!!」
康恵「真美さま!?」
真美「行く……私か行かねばなるまい……!!」
康恵「し……しかしここで真美さまが抜けたら間に合いませんよっ!!」
哲子「っていうか、真美さまが行ってどうするんですかっ!?」
真美「……そっ、それは……行きながら考えるしかあるまい!」
康恵・哲子「…………」
真美「あとはたのんだぞっ!!」
康恵・哲子「真美さまーっ!!」

シャァァァァ……

ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ

英雄子「信号が赤のうちに、差をつけなくては……!」
英雄子(おっ、こんなところに自販機がっ!!)

ちゃりーん ちゃりーん ちゃりーん

ごくごくごく

英雄子「はっ。しまった、もう青だっ!」

ヴァアァァァーッ(←真美、タクシーで移動中)

真美(どうする……取材資料は欲しい……この現実の状況も何とかしなければ……どうする!? 撮った写真は、見てみたいが……本物の殺人現場だったら、絶対に見たくない!! くうっ、私はどうすれば……)

ピピピッ

真美「むうっ、ヒロか!? 真美だ!! 今どこに……何!? 自動販売機?」

[DPEのみせ 30分でできます!! プリント10円]

真美「プリントおねがいしますっ! 全部2枚ずつ! 領収書『リリアン女学園高等部新聞部』で!!」

真美「おう、私だ! 今、資料をプリントに出したから30分後に受け取りに来てくれ!」
哲子「わかりました。2枚ずつプリントに頼んだんですね。そのうち1部は警察用で。1部は資料用!!」
真美「そうだ……30分後に取りに行ってくれ!」

ピッピッピッ トルルルーッ トルルルーッ

真美(……まだ……生きてるか……ヒーロー! がんばれ!! 待っているんだぞ……!! お前一人死なせやしないからな……!! ──といっても、私も死ぬのは絶対にイヤだが!!)
英雄子「はいっ、前杉です。今、環状線を中心部に向かって逃走してますーっ!!」
真美「…………ていうか、もういいから早く交番に駆け込めーーっ!! 逃げ回って時間稼ぎは、もういらないんだよっ!!」

ダ……ッ ガシャァァァン

ガラガラガラ……ピシャーン(←交番に入る英雄子、でも……)

英雄子(交番ってのは、こんな時に限って……いないんだよ、誰もっ!! ……!?)
英雄子「うわああああーっ」

警察官「──彼がシャッターを切ったおかげで、犯人の気がそれて被害者は一命を取り留めたそうですよ。お手柄ですね!! で、学校はどこなんですか?」
真美「いや、それは……」

英雄子「真美さま……」
真美「うん?」
英雄子「新聞部の活動って……いつもこんなんなんですよね……実際!」
真美「!?」
英雄子「私……ちょっと自信なくしちゃったような……自分にはこの道……向いてないかな……なんて思うんですよ……。私……もう新聞に入るの、諦めようかなって」
真美「バカ野郎!! どんな部活動だって命がけなんだ……!! いいか、今こうしている間にも刻々と『とき』は過ぎていく……。過ぎゆく『とき』はお前の『命』そのものであり、私の『命』だ!! 私たちはその貴重な『とき』──『命』を新聞に叩き込むんだ!!
英雄子「真美さま……」
真美「確かに、お前は今回行きすぎて、命もあやうい状況に立った……。だが真実の経験は、何物にも代え難い財産であり……かけがえのない生きた資料だ!! ──財産は溜め込んでいかん……資料もだ! 人の為に多くの人の為に使わなくては……そうだな……! ──今、お前は自分の限界を知った……本当のヒーローになるのはこれからだ」
英雄子「真美さま!!」
真美「行くか……新聞が待っている……お前の命を明日の朝の締め切りまで、私に預けてくれんか……」
英雄子「はい!!」

この作品における人物、事件、その他の設定は、すべてフィクションであります。
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