志摩子「あら? 何を読んでいるの?」
乃梨子「今話題の
週刊少年マガジンですよ」
志摩子「珍しいわね。乃梨たんが学校でマンガを読んでるなんて。てっきり仏像の本ばかりだと思っていたわ」
乃梨子「私だってマンガくらい読みます。それより、今週のマガジンはちょっとワケありなんです」
志摩子「ワケ?」
乃梨子「今週掲載されてる
『たんぽ 〜煉獄の黙示録〜』に登場している学校が、ここリリアン女学園にそっくりなんです」
志摩子「どれどれ…………確かによく似てるわね。このキャラなんか、まるで令さまみたい」
乃梨子「でしょ。さっきも由乃さまと祐巳さまが読んでいたのを
不幸にも覗いたしまった祥子さまが、烈火の如く怒って出ていきました」
志摩子「何でかしら?
設定がよく似たマンガなんていくらでもあるでしょうに」
乃梨子「『令は格好良く描かれているのに、私はこんなはしたない小娘に描かれなくてならないの!』って」
志摩子「怒りどころが如何にも祥子さまらしいわ。でも、このマンガのつっこみどころはそれだけじゃないわ」
乃梨子「それだけじゃないと言われても、いっぱいありすぎて……」
志摩子「
196ページの4コマ目にある
「"鈴宮"13番目の使徒もとい丁稚。イスカリオテの裕次郎!!」という台詞よ」
乃梨子「これって、
『ヘルシング』に出てきた
法皇庁特務局第13課イスカリオテ機関のパロディですよ」
志摩子「ただのパロディならいいけれど、私のつっこみどころは
13番目の使徒と書いているところよ」
乃梨子「それが、何か問題でも?」
志摩子「乃梨たんも授業で習ったでしょう。主イエス・キリスト様の弟子は何人だったかしら?」
乃梨子「え〜と……12人……だったかな」
志摩子「そうよ、
イエス様の弟子は全部で12人。補充されたことはあったけど、それは、イスカリオテと直接関係ないわ」
乃梨子「補充? されたっけ?」
志摩子「イエス様を裏切ったイスカリオテのユダが自殺した後、11人になった弟子たちは
くじ引きで使徒を選ぶことにしたの。それが、
マティアよ。新約聖書の使徒言行録にはこう書いてあるわ」
そこで人々は、バルサバと呼ばれ、ユストともいうヨセフと、マティアの二人を立てて、次のように祈った。「すべての人の心をご存じのである主よ、この二人のうちどちらをお選びになったかを、お示しください。ユダが自分の行くべきところに行くために離れてしまった、使徒としてこの任務を継がせるためです。」二人のことでくじを引くと、マティアにあたったので、この人が十一人の使徒の仲間に加えられることになった。
新約聖書『使徒言行録』1章23節〜26節
乃梨子「神の使徒といえる十二使徒を、安易にくじ引きで決めるなんて意外です」
志摩子「くじ引きだったら必要なのは運だけだから、当たったらある意味で神に選ばれたといえるわね。ところで、乃梨たん」
乃梨子「なんですか?」
志摩子「乃梨たんが言っていた『ヘルシング』、私にも貸してくれない」
乃梨子「えっ? ダメ、絶対ダメ! お姉さまの教育に良くないですよ!」
志摩子「なんで? だって格好いいじゃない
アンデルセン神父」
乃梨子「……」
つづく