なぜなにマリみて"熱心党のユダ(下)"

乃梨子「ねえねえ、お姉さま」
志摩子「なーに、乃梨たん」
乃梨子「さっき、祥子さまが薔薇の館にも寄らずに学校を出ましたけど、車に乗って」
志摩子「それはアレね、K談社の(自主規制)編集部へカチコミに行ったんだわ」
乃梨子「やっぱり、アレですか?」
志摩子「漫画家さんと担当編集者は可哀相ね。この学校で最も怒らせてはいけない人の逆鱗に触れてしまったのだから」
乃梨子「どうなるんでしょうね、彼ら」
志摩子「当然、見敵必殺(サーチ・アンド・デストロイ)でしょうね。きっとあの人からこう命令されたんだわ。『見敵必殺(サーチ・アンド・デストロイ)だ! 我々の邪魔をするあらゆる勢力は叩いて潰せ!! 逃げも隠れもせず正面玄関から打って出ろ!! 全ての障害はただ進み、押し潰し、粉砕しろ!!』って」
乃梨子「まるで、熱心党のようですね」
志摩子「それはどうかと思うけど……。熱心党って言えば、昨日の話、まだ途中だったわね」
乃梨子「イスカリオテのユダは熱心党の刺客だった、ってやつですか? でも、それはおかしいですよ」
志摩子「あら、どうして?」
乃梨子「新約聖書には、イスカリオテのユダが熱心党だったなんて、一言も書いてありません
志摩子「その通り。新約聖書で熱心党に入っていると明記されている使徒は、熱心党のシモンだけだわ」
乃梨子「なら、何で……」
志摩子「イスカリオテはカリオテ出身の男と、短剣を持った刺客という二通りの意味があるわ」
乃梨子「カリオテ出身?」
志摩子「ユダヤにカリオテという地名は無いそうだから、恐らく旧約聖書のヨシュア記15章25節にあるユダ族が受け継いだ土地ケリヨトのことだと思うわ」
乃梨子「もう一つの意味が気になりますね」
志摩子「熱心党員として、主イエス様をローマの支配から開放してくれるユダヤの王と期待していた。だからこそイスカリオテのユダは弟子になったのに、その期待に応えられない主イエス様に恨みを持っていた。そこで、当時の政治派閥ファリサイ派律法学者と結託して、主イエス様の暗殺を企てた」

 そこで、祭司長たちとファリサイ派の人々のもとへ行き、イエスのなさったことを告げる者もいた。そこで、祭司長たちとファリサイ派の人々は最高法院を召集して言った。「この男は多くのしるしを行っているが、皆が彼を信じるようになる。そして、ローマ人が来て、我々の神殿も国民も滅ぼしてしまうだろう。」彼らの中の一人で、その年の大祭司であったカイアファが言った。「あなたがたは何もわかっていない。一人の人間が民の代わりに死に、国民全体が滅びない方法があなたがたに好都合だと考えないのか。」これは、カイアファが自分の考えから話したのではない。その年の大祭司であったので預言して、イエスが国民のために死ぬ、と言ったのである。国民のためばかりではなく、散らされている神の子たちを一つに集めるためにも死ぬ、と言ったのである。この日から、彼らはイエスを殺そうとたくらんだ。

新約聖書『ヨハネによる福音書』11章

乃梨子「だから、刺客のユダ
志摩子「熱心党は、目的のためなら手段を選ばないイスラム原理主義過激派みたいなところがあったからね。しかし、普通に暗殺したのでは疑いをかけられるわ。主イエス様を逮捕して法廷に出せば合法的に暗殺できる
乃梨子「それで、どうやって捕まえたんですか?」
志摩子「12使徒は、主イエス様と一緒にゲッセマネの園に訪れたわ。そこでイスカリオテのユダは、前もって決めていた合図通り主イエス様に接吻し、武装した祭司長の配下たちを呼び寄せた」

 イエスがまだ話しておられると。十二人の一人であるユダがやって来た。祭司長たちや民の長老たちの遣わした大勢の群衆も、剣や棒を持って一緒に来た。イエスを裏切ろうとしていたユダは、「私が接吻するものが、その人だ。それを捕まえろ」と、前もって合図を決めていた。ユダはすぐにイエスに近寄り、「先生、こんばんは」といって接吻した。
イエスは、「友よ、しようとしていることをするがよい」と言われた。すると人々は進み寄り、イエスに手をかけて捕らえた。

新約聖書『マタイによる福音書』26章47節〜50節

志摩子「これで、イスカリオテのユダの望みは叶ったわけね。主イエス様が捕らえられると、信じていた弟子たちも蜘蛛の子を散らしたように、主イエス様を見捨てて逃げていったわ。12使徒の一人ペトロなんて、大祭司の家でこう言ったのよ」

 するとある女中が。ペトロがたき火に照らされて座っているのを目にして、じっと見つめ、「この人も一緒にいました」と言った。しかし、ペトロはそれを打ち消して、「わたしはあの人を知らない」と言った。少したってから、ほかの人がペトロを見て、「お前もあの連中の仲間だ」と言うと、ペトロは、「いや、そうではない」と言った。

新約聖書『ルカによる福音書』22章56節〜58節

志摩子「主イエス様の弟子だなんてばれたら、自分も裁かれると思って黙っていたの」
乃梨子「こんな人たちが、イエスの使徒なんて信じられないわ」
志摩子「もちろん、使徒に選ばれた時は、主イエス様の多くの奇跡を体験し、彼らも愛に包まれていたのでしょう。その中でイスカリオテのユダは、主イエス様の死刑が死刑判決された後に、自分が犯した罪を悔いて、自ら命を絶ったわ」

 そのころ、イエスを裏切ったユダは、イエスに有罪の判決が下ったのを知って後悔し、銀貨三十枚を祭司長たちや長老たちに返そうとして、「わたしは罪のない人の血を売り渡し、罪を犯しました」と言った。しかし彼らは、「我々の知ったことではない。お前の問題だ。」と言った。そこで、ユダは銀貨を神殿に投げ込んで、首をつって死んだ。

新約聖書『マタイによる福音書』27章3節〜5節

志摩子「主イエス様が捕らえられる直前に、『友よ、しようとしていることをするがよい』と言われたことが、よほど心に響いたのね」
乃梨子「つまりそれは、イエスは裏切られることを知っていて、なおかつそれを許そうとしたのですか」
志摩子「そういうことね。主イエス様は、十字架にかけられた3日後に復活し弟子たちの前に現れこう言ったわ」

 イエスは重ねて言われた。「あなた方に平和があるように。父が私を遣わしたように、わたしもあなた方を遣わす。」そう言ってから、彼らに息を吹きかけて言われた「精霊を受けなさい。だれの罪でも、あなた方が赦せば、その罪は赦される。だれの罪でも、あなた方が赦さなければ、赦されないまま残る。」

新約聖書『ヨハネによる福音書』20章21節〜23節

志摩子「裏切られることを知ってたということは、自分が死ぬことを知っていたということ。復活した主イエス様は、弟子たちに対して自分の言葉をより多くに人に伝えよと言ったのね」
乃梨子「イエスの言葉を伝えることが、見捨てて逃げたことへの罪滅ぼしになると」
志摩子「こうやって考えると、イスカリオテのユダは悲しい存在よね。自分が死ぬことで罪が償われると早合点していたんだから
乃梨子「じゃあ、K談社に殴り込みをかけた祥子さまも許されるのでしょうか?」
志摩子「…………すべてはただ神の御心のままに……」
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