なぜなにマリみて“血のヴァレンタイン− My Bloody Valentine”(上)

乃梨子「ねえねえ、お姉さま………………!?」
志摩子「
     ( ゚д゚) ;y=‐ ;y=‐
     (\/\/

乃梨子「うわっ!」
志摩子「
     ( ゚д゚) ;y=‐
     (\/\
          \ ;y=‐

乃梨子「ちょ、ちょっとお姉さま!?」
志摩子「あら? 乃梨たんどうしたの?」
乃梨子「どうしたの、じゃありませんよ! 何やってるんですか!」
志摩子「何って、ガン=カタよ。
     ー=y;―
         |
      (゚д゚ )
 ー=y;_/| y |

乃梨子「わわわっ!? こっちに銃口を向けないでください! 大体なんですか? ガン=カタって?」
志摩子「よくぞ聞いてくれたわ。クラリック(聖職者)のみが使えるガン=カタは、(中略)数理的に導き出した科学分析が根底にあるのよ」
乃梨子「力説して頂いてありがたいのですが、映画に影響されすぎです」
志摩子「そうかしら?
  ー=y;  ( ゚д゚)   ;y=‐
    \/| y |\/

乃梨子「だから、いい加減に両手のスプリングフィールドV12を下ろしてください!」
志摩子「あら? よく持っている銃がスプリングフィールドV12だって判ったわね?」
乃梨子「この前、家で『フェイス/オフ』を一緒に見たときに『ジョン・ウー(・∀・)イイ』って言ってたじゃないですか。…………ってそういうことを言いに薔薇の館へ来たわけじゃないんですよ」
志摩子「なら何の用なの?」
乃梨子「新聞部からの企画で、今年もバレンタインイベントをすると聞いたのですが、その時にあげるプレゼントを何にしていいか判らなくて……」
志摩子「プレゼント? バレンタインカードじゃなくって?」
乃梨子「ええ。今年は趣向を凝らして『つぼみのバレンタインプレゼント争奪 燃えろ!超人学園 GROOVE ON FIGHT』で勝ち残った……」
志摩子「ストップ! そこまででいいわ。大体判ったし、話が進まないから。で、あげるプレゼントで困っているワケね」
乃梨子「そうなんです。急に言われたし、それにバレンタインデーでチョコとかあげたことなくって」
志摩子「家族にも?」
乃梨子「父には義理チョコをあげたことあるけど、それ以外には……」
志摩子「別に何でもいいんじゃない。どのみちお金は掛けられないんだから。家にあるものでも、好きな人からのプレゼントは嬉しいものよ」
乃梨子「仏像とか数珠でも、ですか」
志摩子「…………。まあ、元々バレンタインデーは、1年365日ある聖人の日の一つで、好きな人にチョコレートをあげる日でもなければ、愛を告白する日でもないけどね」
乃梨子「え? そうなんですか?」
志摩子「バレンタインデーの2月14日と翌日15日は、古代ローマの豊穣神ルペルクスに感謝する祭、ルペルカーリア祭があるの。山羊の皮を被った半裸の男性が竿を持って踊り周り、その竿が手に触れた女性は子宝に恵まれるそうよ。他にも未婚女性の名前を書いた紙を壷に入れて、翌日それを男性に引かせ、当たった女性とおつき合いするお祭りでもあるのよ」
乃梨子「そのルペルカーリア祭が、バレンタインデーの前身ということ?」
志摩子「正確なところは定かではないけどね。4世紀にローマ教皇ユリウス1世によって、ヴァレンティヌスを祀る聖堂が建てられたわ。殉教者ヴァレンティヌスてんかんの守護聖人となり、亡くなった2月14日を聖ヴァレンティヌスの日にしたの。古代ローマ帝テオドシウス1世がキリスト教を国教とした後、長い年月の間にカーペンタリア祭などヨーロッパの民間信仰と結びついて恋人の守護聖人という意味合いを持つようになったわ。それから、聖ヴァレンティヌスの日が、バレンタインカードをあげたり好きな人に愛を告白する日になったのよ」
乃梨子「( ・∀・)つ〃∩ ヘェー その殉教した聖ヴァレンティヌスって聖人になるくらいですから、よほど立派なことをしたんですね」
志摩子「有名なところでは、こんな話があるわね。紀元268〜270年の古代ローマで、当時のクラウディウス2世帝(本名:マルクス・アウレリウス・ヴァレリウス・クラウディウス・ゴティクス)が、強兵策として兵士の結婚禁止令を出したわ。それでも結婚したいという兵士たちを、ヴァレンティヌス司祭が内緒で結婚させたの。それがクラウディウス2世帝にばれて、あえなく投獄。ヴァレンティヌス司祭は、その牢獄でも囚人たちに神の愛を説き、看守の娘で盲目だった目を見えるようにしたわ」
乃梨子「でも結局は、処刑されてしまうんですね」
志摩子「そうよ。ヴァレンティヌス司祭がどんなに民衆に対して奇跡を起こしても、キリスト教徒迫害下にある当時のローマでは、何をやっても処刑なのよ」
乃梨子「じゃあ、ヴァレンティヌス司祭は、大っぴらに外を出歩けないじゃないですか」
志摩子「ところが、そうでもないのよ。ローマにおけるキリスト教の勢力は、ヴァレンティヌス司祭たちの布教で少しずつ大きくなっていたの。クラウディウス2世帝を脅かすほどにね。ここからは、さっきとはまた別の聖ヴァレンティヌスのエピソードよ」
乃梨子「別のエピソード? 2つもあるんですか?」
志摩子「聖ヴァレンティヌスの話は諸説あって、最初に話したのはその内の一つ。これから話すのは、イタリア・ジェノバの大司教ヤコブス・デ・ウォラギネが編纂したキリスト教聖人伝説集『黄金伝説』を基にしたお話よ。聞きたい?」
乃梨子「いや、別に……」
志摩子「プニュプニュ ( ´ー`)σ))Д`)←乃梨子
 聞きたいわよね?」
乃梨子「き、聞きます。聞きますから……や、やめてください……」
志摩子「それでは聞かせましょう<( ̄^ ̄)>えへん
 マクシミヌス・トラクス帝以降50年間のローマ帝国は、東方のペルシア、北方のアレマンニ族とゴート族に攻め込まれ、その上帝国各地で内乱が起こり最低最悪の時代でした。皇帝は身分の高い男から選ばれるのではなく、卑賎な生まれの軍人から多く選ばれました。それぞれの皇帝の在位も短く、戦死や暗殺など多くが非業の死を遂げました。
 衰退するローマ帝国市民の心の隙間を埋めるように、キリスト教は勢力を拡大していきました。そんな情勢の中、ヴァレンティヌス司祭は人気を集めていました。当時の皇帝クラウディウス2世帝が、これを黙って見てるわけがありません。
 ある日、クラウディウス2世帝は、ヴァレンティヌスを宮殿に呼び出しました。そもそもローマ帝国にはローマ神話の神々があって、古来伝統の神を崇拝せず、異教の神を崇拝する者はローマ帝国の敵なのです。質問をするクラウディウス2世に、ヴァレンティヌスは、真なる神イエス・キリストを信じ、愛をもって政治を行えるように祈ることを説きます。ヴァレンティヌスの説教に一瞬心を動かされたクラウディウス2世は、すぐに拷問や処刑を行わず、処置を一旦ローマ市長に預けました。
 ヴァレンティヌスを預かったローマ市長は、裁判にかけることを前提にして身柄を判事のアステリオの屋敷に連行しました。アステリオは無神論者で、キリスト教の布教を認めない保守派の裁判官だったのです。それを知っていたヴァレンティヌスは、意表をつくように邸宅へ入るなりイエス・キリストに祈りを捧げました。不快に思ったアステリオは、祈りを聞くなり語り始めました。
『喩えどんなに素晴らしい神がいても、嫌だと否定する人はいる。医者が薬を病気によって使い分けるように、救いの神も様々なものがあった良いわけだ。イエス・キリストだけが絶対の神なんて間違っていないか』
 これにヴァレンティヌスは穏やかに反論します。
『貴方は、身分があり不自由もない健康なお人です。しかし、身分も低く死に直面している人には、そんな喩え話をしても意味がありません。こうしている間にも、救われたいと悩んでいる人々はいるのですから。
 どこの家にも悩みはあります。そう思ったからこそ祈ったのです。神を否定することは、神を意識していることの裏返しです。心が不安なのです。それほど強く神を否定するということは、よほどの不安があるのではないですか』
 これを聞いてアステリオは、自分が目論み失敗したことをキリストが始末できるか、と尋ねました。もちろんです、とヴァレンティヌスは答えました。
 アステリオが語ったのは、概ねこんな内容です。
 ある貴族の御曹司と婚約していたアステリオの娘は、挙式間近に重病に罹ってしまいました。何人もの医者から治療を受けましたが、視力の回復だけが悪化をたどり、ついには失明してしまいました。プライドの高い娘は、精神的にもかなり疲弊していて、時々発作が起こるのです。
 アステリオの悩みを聞き、ヴァレンティヌスは娘に会うため屋敷の2階にある娘の部屋へ入りました。盲目の娘は、絶望のあまりやつれ、目も落ち窪み、小皺の目立つ痛ましい姿でこちらに背を向け座っていました。ヴァレンティヌスは両手を合わせて跪き、自ら死ぬことを望んでいた盲目の娘に再び聖なる光が射しますように、と慈悲深き主に祈りを捧げました。祈りが終わると、合わせていた掌で娘の両瞼にそっと覆ってあげました。するとどうでしょう。娘の目が微かに光を感じ始めたのです。ヴァレンティヌスが掌を離すと、次第に感じる光が増していき、その姿が見えるようになりました。盲目だった娘は、喜びに目を濡らしながら、光を取り戻してくれたヴァレンティヌスに感謝しました。
『感謝は私ではなく、主イエス・キリストに』
 ヴァレンティヌスは、娘にそう囁きました。娘は、今まで見せなかった微笑みを浮かべました。アステリオ夫妻は、ヴァレンティヌスの奇跡に涙を溢れさせて、娘を抱擁しました。
 翌日、ヴァレンティヌスは、アステリオの屋敷で開かれた宴に招待されました。娘が光を取り戻したお祝いに、ローマ近郊から40人ほど親族縁者が集まりました。ここでもヴァレンティヌスは、真摯な愛が不可能を可能にし、本当の神へ祈りを捧げること、信仰とは奇跡を呼ぶほどの深い愛であることを説きました。ヴァレンティヌスの説教を聞き、判事のアステリオや親族一同は、心から拍手を送りました。
 宴が終わりに近付く頃、ヴァレンティヌスは帰るために席を立ちました。娘は途中まで送る言いましたが、やんわりと断られしまいます。ほんの少しまでだからと言うので、仕方なく一緒にアステリオの屋敷を出ました。月明かりの中、肩を並べて歩くヴァレンティヌスと娘。目が見えることの喜びをヴァレンティヌスに話す娘は、彼の口から悩みを持っていることを告白されます。娘がどんな悩みなのか聞いても、もうすぐ判る時がくるとはぐらかされてしまいました。やがて、ヴァレンティヌスは立ち止まり、娘を見つめて言いました。
『神は私に愛と夢を創ってくださった』
 その言葉を耳にして、娘は胸の鼓動に高鳴りを感じました。瞳はヴァレンティヌスのから離すことができませんでした。ヴァレンティヌスは、別れの挨拶をしようと娘の肩に手をかけ、自分の頬を娘の頬に触れようしたその瞬間、おもむろに娘と唇を重ねました。ヴァレンティヌスの心にわだかまっていた愛の痛みが、わき上がってくるのを感じました。唇を離し、背中を向けて帰途に着くヴァレンティヌスを、娘はいつまでも見送っていました。
 ヴァレンティヌスの奇跡を目の当たりにした判事アステリオは、これまでの自分の罪を償い、一族でもってキリスト教の洗礼を受けました。これに怒ったのは、アステリオに身柄を預けたローマ市長です。信頼していたアステリオ判事に裏切られたローマ市長は、アステリオの一族を皆処刑せよと命令しました。
 処刑の当日、首切り役人が改宗するなら死罪を免じてやると条件を出されますが、アステリオの娘は決して死を恐れていませんでした。私たちの死は神の栄光による祝福であり、天国へ召されると信じているからです。娘ほどの美しさなら裕福な貴族の奥方になれるとも言いました。しかし娘は、目を開いた時から他の男を愛さず、ヴァレンティヌスだけを想うことを神に誓ったのです。
 同じ頃、娘に愛の告白をされたヴァレンティヌスも捕らえられていました。クラウディウス2世を前にして、市民を苦しみから救うのは神の愛のみであり、皇帝が真の信仰者を殺してもキリスト教が皇帝を滅ぼし多くの人を救うと説きました。聞く耳を持たないクラウディウス2世は、即刻ヴァレンティヌスの処刑を決めました。
 紀元270年2月14日、ヴァレンティヌスは、ローマのフラミニア街道近くで皇帝の親衛隊から拷問を受けた後に斬首されました。後のローマ教皇ユリウス1世は、ヴァレンティヌスに祀る聖堂を彼の殉教の地に建てました。ヴァレンティヌスの一生は、神に対する深い愛と、そこから生まれる永遠の命そのものでした。
 おしまい」
乃梨子「(*゚ ▽゚ ノジ☆パチパチ」
祥子「(*゚ ▽゚ ノジ☆パチパチ」
乃梨子「!?」
志摩子「あら? いつの間にか、祥子さまも聞いていたんですか?」
祥子「ええ、ごきげんよう志摩子」
志摩子「ごきげんよう」
乃梨子「ごきげんよう」
祥子「ヴァレンティヌスが娘の部屋に入ったところからずっと聞いていたわ。志摩子ったら、お話を聞かせることに夢中で、全然気が付かないんですもの」
志摩子「そ、それは失礼しました……」
祥子「ときに志摩子。あなたも出るんでしょ、『つぼみのバレンタインプレゼント争奪 燃えろ!超人学園 GROOVE ON FIGHT』
志摩子「は?」
祥子「こんな熱いイベントを企画するなんて、新聞部もなかなかやるわよね」
志摩子「え〜と……」
祥子「嫌って言っても、山百合会は全員参加だから、ちゃんとエントリーしておくわ」
志摩子「いや、あの……」
祥子「それを伝えに来ただけだから、じゃあね」
志摩子「………………」
乃梨子「どうするんですか、お姉さま?」

つづく
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