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『Sachiko&Yumi』
第1幕 第2場 講堂裏

蓉子「三奈子もこれに懲りて、今後は派手な活動はしないでしょう。争いを止めるのが先輩のつとめですから」
柏木「お二人とも名高きリリアンの生徒でありながら、争うのは残念ですからね。ところで、私のお願いの件は?」
蓉子「前にも申し上げた通り、祥子は世間知らずなつぼみ……まだ花嫁になる年頃とは思えません」
柏木「世間には、もっと若い母親も」
蓉子「早く咲けば、早く散る、それが世の常というものです。
 ですが、柏木さん。とにかく本人に言い寄って、心をつかむことですよ。
 私の意向は、彼女の承知へのほんの添え物に過ぎません。
 彼女がウンと言えば、私の同意、承諾などは、むろん彼女の選択の外へは出ません。
 ところで、今夜は小笠原邸で恒例のパーティーを開く運びになっておりまして、ぜひ、柏木さんにもお出いただきたいのです。
 暗い夜空を、明るく照らす乙女たちが大勢集まります。その中から最もふさわしい娘をお選びになるといいわ」

志摩子「悲しい痛みは、古い苦痛を消すというわ。ぐるぐる回って目が回れば、逆さに回って治すに限る。どんなに激しい悲しみも、別のができれば忘れるものよ。
 祐巳さんも、その目が何か新しい病気にでもかかるといいわ。そうすれば、きっと古い方の病気は消えてしまう」
祐巳「それにはね、例のオオバコの薬が妙薬だって」
志摩子「妙薬? 何の?」
祐巳「怪我のよ。向こう脛の」
志摩子「どうしたの? 悪いものでも食べた?」
祐巳「まるで牢獄のような日々……食事も喉を通らず、苦しいことばかり……」
乃梨子「祐巳さま、お読みになりましたか?」
祐巳「読めますよ、自分のみじめな運命なら」
乃梨子「そうじゃなくって、リリアンかわら版です」
祐巳「それはできます。文字と言葉を知っていればね」
乃梨子「なんて正直なご挨拶。じゃ、もう失礼します」
祐巳「ウソ、冗談よ。ちょっと貸して。
 『偉大なる大金持ち小笠原家が、今宵、あの有名な仮装パーティを開きます。
 盛大なパーティです。招待客は鵜沢冬美さま、京極貴恵子さま、田沼ちさとさま、蟹名静さま……』
 静さまですって?」
志摩子「いとしい静さまも出席。彼女に恋しているんでしょ?」
乃梨子「でも、大丈夫かしら、あんな大金持ちの家……」
志摩子「パーティへ行きましょう。静さまとほかのお姉さまを比べるには、絶好のチャンス。白鳥も鴉に見えますわ」
祐巳「敬虔な信仰にも似た気持ちで仰いでいるこの私の瞳が、仮にもそんな偽りのを言うとすれば、涙は炎に変わってしまえばいい。
 この世に、蟹名静さまより美しいお姉さまなんて、いるわけがない!」
志摩子「彼女を美しいと見たのは、ほかに誰もいない時、ただあのお姉さま1人を、貴女の瞳にかけて比べ合わせていただけ」
祐巳「行くわ。ただし比べるわけじゃない。彼女の美しさに酔いしれに行くの」

次回……第1幕 第3場 小笠原家の一室

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