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『Sachiko&Yumi』
第1幕 第3場 小笠原家の一室

江利子「祥子! 祥子!……祥子!
 瞳子ちゃん、祥子はどこ?」
瞳子「先ほど、お呼びしましたのに……。
 祥子さま!……祥子さま!
 子羊さん! テントウ虫さん! あら、大事なお姉さまに虫がついてはいけなかったわ。
 祥子さまあ!」
祥子「どうしたの? 誰かお呼び?」
瞳子「江利子さまでございますよ」
祥子「江利子さま、何かご用?」
江利子「瞳子ちゃんは席を外して。
 ……ああ、やっぱり入って、一緒にいてちょうだい。貴女にも聞いて欲しいことなの。
 瞳子ちゃんにも祥子が年頃だと思うでしょう?」
瞳子「そりゃもう、誰よりもお美しい。お姉さまもやがては十八……覚えていますよ。お姉さまが、小学生の頃、転んでオデコに怪我をして……それを見たわたくしの父が『うつぶせにお転びですか? 年頃になったら仰向けに転ぶんですよ』って。するとどうでしょう、お姉さまは泣きやんで『うん』ですって。それがまあ、その通りになるなんて……」
江利子「その話はもういいわ……」
瞳子「はい、はい、やめますわよ。わたくしが知っているお姉さまの中で、一番美しいお姉さま。その祥子さまが結婚なさる日を見られるなんて……本望ですわ」
江利子「そう、まさにその結婚話。ねえ、祥子、結婚のこと、どう思ってる?」
祥子「そんな晴れがましいことは、まだ考えたことも……」
江利子「手っ取り早く言うわ。柏木優さまが、貴女を妻にって」
瞳子「素晴らしいお方ですよ。ろう人形のように完璧な方、ヴェローナの花より美しい」
江利子「柏木さまこそ花。今夜お会いして、この方のお顔をよく見るといいわ。
 美の神がつづる愛の物語のようなお顔……でも、まだ『妻』という表紙がないの。あの方を夫にもつことで、貴女は全てを手に入れられる……何も失わずにね」
瞳子「失うどころか、大きくなるばかり。女性というものは男で子供をもうけます」
江利子「一言でいいから。柏木さまを好きになれそう? どう?」
祥子「好きになれるように、お目にかかってみるわ、眼で見て、それで好きになれるものならね。でも、私の目の夫は、お母様のお許しがあるところまでしか飛ばないわ」
ゆかり「お客様がお見えになりました」
江利子「下がって! すぐ行くわ。
 祥子、柏木さまがお待ちよ」
瞳子「どうか、お姉さまも楽しい夜をお過ごしに」

次回……第1幕 第4場 街上

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