>>トップページへ >>Sachiko&Yumiトップへ

『Sachiko&Yumi』
第4幕 第2場 小笠原家の広間

蓉子「ここに書いてあるお客様、これだけをお呼びするのですよ。
 ねえ、お前は行って、うんと腕利きの料理人を雇ってきなさい」
メイド2「拙い人なんて、連れてくるものじゃございません。指を嘗められるかどうか、試してからに致しますからね」
蓉子「けど、そんなことでどうして試験になるの?」
メイド2「だって、蓉子さま、指を嘗めぬはコックでねえって、昔から言うじゃございませんか。だからね、指を嘗められないような料理人は、決して連れて来や致しません」
蓉子「よし、では行ってきなさい。今度はどうも準備がひどく悪いようね。
 そうそう、祥子は聖のところへ行ったっけな?」
瞳子「はい、お出かけになりました」
蓉子「結構、何とか少しは言い聞かせてくれるかもしれないわ。いやはや、我が儘な、まるで子供ね、あの子も」
瞳子「ご覧下さいませ、告解からお戻りでございます、何か嬉しそうなお顔つきで」
蓉子「これこれ、どうした、強情っ張りさん? 何処をうろついていたの?」
祥子「お姉さまの言いつけに背いたり、私は本当にいけませんでしたわ、今教わってまいったばかり何でございますの。
 そして、聖さまのお諭しは、今すぐこの通り、お姉さまの足許にひれ伏して、お許しをお願いしなさいと申されました。
 どうかお許し下さいませ、お姉さま!
 これからはもう、お姉さまのお命令通りに致しますから」
蓉子「では、柏木さまのところへ使いをやって、早速早朝にも、結婚の固めをしてしまいたいと、そうお伝えしなさい」
祥子「柏木さまには、シスターの庵室でお目にかかりました。そして、娘としての嗜みを越えません限りでは、できるだけ心の真実をお見せしたつもりでございます」
蓉子「おお、それはよかった。結構、結構。さあ、立って。そうでなくてはならないの。一つ私にも柏木さまに会っておきたいが、そうだ、お前、往って、ここへお連れ申すのよ。
 どうも、まことにはや、あのシスターには、感謝しなくてはならないわけね」
祥子「瞳子ちゃん、私の部屋まで一緒に来て。明日身に着ける要り用の飾り物をね、手伝って、良いと思うのを選んで欲しいの」
江利子「それは別に今じゃなくても、まだいくらでも間はありますから」
蓉子「いや、瞳子、一緒に行ってやって。明日には教会行きがあるからね。
 大丈夫、万事きっと上手くゆく、見ていなさい。
 お前は祥子のところへ行って、着付けの手伝いでもしてやりなさい。
 よし、柏木さまのところへは、私が自身出向いていって、明日の準備をさせるとしましょう。
 私も今日は実に嬉しい。とにかくあの我が儘娘が、すっかり心を改めてくれたのだからね」

次回……第4幕 第3場 祥子の部屋

inserted by FC2 system