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レビル演説

 地球連邦に生き残った国民全てに、私は訴えたい。ジオンには、すでに兵はない! 艦もなければ、武器、弾薬もない! なのになぜそのジオンに降伏しなければならないのか! 国民よ! 討つべきは、連邦の軟弱な政府高官である。絶対民主主義の名の下に隠れ、何一つ決定することのできない高官に、連邦の生き残った一人一人の意志を託すわけにはいかない!
 ジオン公国のデギン・ソド・ザビが、公国の実権を握った時に語った傲慢不遜な言葉を思い起こすがいい!
 ジオンの民は選ばれた民である、とデギンは言った。地球連邦の民は、旧来の因習にとりつかれて、宇宙圏を生活の場として始めた人類の意識が拡大しつつあるのに気づかぬ古き人々であるという。その古き人々の連邦に、ジオンの国民が従ういわれはないと言う! 地球型官僚の堕落は、たしかにデギンの言う通りではある。連邦軍にあってもそれは事実であろう。しかし、連邦の国民よ。デギン・ザビの語る一面の真理にのみ眼を奪われてはならない。ジオンは地球からもっとも離れたサイドであるが、その彼らが宇宙の深淵を見たなどという戯れ言を誰が信じようか!
 デギン・ザビが、連邦の一部の堕落に事よせて、ジオン公国の正当性を主張するなど、許せるものではない。所詮、ジオンの独裁をたくらむザビ家一統の独善である。百歩引き下がってザビ家のジオン独裁を認めたとしても、なに故に、地球連邦そのものまでがザビ家の前に膝を折らねばならないのか! 地球連邦とは、故人の主権の確立の上に立った政府である。人類が有史以来始めて宇宙に進出したのも、地球連邦という人類の英知の結晶たる政府があったればこそだろう。しかるに、あのギレン・ザビは言う。討つには地球連邦の軟弱である、と! 討てばよろしい。 軟弱の源を! しかし、四十億の罪なき人々を殺戮したギレン・ザビになにを語る資格があろうか!
 ギレンは言う。自然体系の中、一人、人類のみが強大に増え続けるのは、自然の摂理に対する冒涜である。それを今こそ管理して、自然体系の中の一つの種として生息しなければならないとき、四十億の死は人類の自然に対してなさねばならない贖罪であると。これが、真理か? 一つの種、一つの生命系をその自らの手によって抹殺させるに等しい罪を犯して、ギレンは何を得ようというのか? ……得るものは、ない! 人があって、始めて独裁もふるえようというのに、自ら生命系を断とうとする暴挙には、我々は素朴に理解しかねるのである。
 その男が、またしてもルナツーさえ地球に叩きつけてみせるという。何を根拠にギレンは、それを言うのか? 彼のイデオロギーが絶対真理であるからなのか? 否! 彼の独善でしかない。連邦が軟弱で腐敗堕落しきっているのか? これも、否である。ジオンの脅威に勇敢に戦った善良有能なる国民は、未だ健在である。では、ジオンは、連邦に比べて強大な軍事力があるというのか? これもまた、否である?
 国民諸君! 聞き給え! すでにギレンの言葉は威しにしかすぎない。不肖、私は、幸いにしてジオンに捕らわれ、ジオン本国の実体に触れた。ジオンの国民は疲れきっている。軍事力の増強は、明日すぐに間に合うというものではない。ルナツーを地球へぶつけるなどと、やってもらおうではないか! ギレン・ザビよ!
 ルウム戦役ですでにジオンの兵力は尽きている。一人の兵を育てるのに、何日かかる? ギレンは、知らぬわけではあるまい。そして、地球連邦の国民、一人一人へ私は訴える。もはや、ジオンに兵はいない! そのジオンに跪くいわれはないのだ! 起てよ国民! 今こそ、ジオンをこそ、我らの前に倒すべきである。
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