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カロッゾ・ロナ演説(C.V創設時)

 諸君等が、本日まで、ビック・ブッホ以来の企業戦略のもとに、下働きに徹してきたことには、心より感謝している。再生品の艦艇やモビルスーツ、モビルマシンのテストは、どこに危険があるか知れない。それを身を挺してためす危険な任務をおこない、さらには、長期宇宙飛行テストなども実行してくれた。その諸君等の働きは、軍事訓練以上に峻烈であったことは、承知している。
 現今の地球連邦政府内部の腐敗堕落は、人類全般にのしかかって、地球圏の生活圏を破壊するまでにいたっていることは、諸君等も承知していることである。わかりやすい問題でいえば、まだ再生しきっていない地球に、中央政府の高官たちによって、永住目的の移民がはじまっているのである。これでは、地球は、旧世紀の二の舞となる。この意味は、諸君等には理解できよう……人類は、自然にたいして謙虚でなければならない。調和ある生きかたをしなければならない。諸君等の信条には、これらの教義を、クロスボーン・バンガードに入隊してから学び、潔い生きかたを実践してきた。このバックボーンがあるからこそ、諸君等は、厳しい任務を堅実にこなしてこれたのである。
 この諸君等の生きかたを連邦政府内部に広めなければいけない時代が、招来したのである、との自覚を持っていただきたい……。ご覧のとおり、自分はラフレシア計画の完成をめざして、自らをテスト台に供している。ラフレシア計画については、知らない者がほとんどであろうが、おだやかにゆるやかに人間の能力を拡大させるシステムの研究である。しかしながら、ラフレシア計画の骨幹は、人の死を拒否するものではない。肉体は有限であって、ひととき魂をあずけられた肉体は、死によって宇宙にかえすのが真理であり、人の生きかたである。大切なことは、ひとときの肉体に、良き生きかたを体験させて、生きていて良かったという幸福感とともに、死を迎えられる心を育てるのが、人の生というものである。
 人の欲望。それこそ人の業である。が、社会という体制がが構築されると、そのシステムが、人の業を強化させて、永続していくように働く。これが、システムの持つ悪であり、悪の根源であるといっても良い。官僚機構は、国家と大衆を管理するための最低限度の必要事項なのだが、組織そのものがもつ悪を内包していることも、諸君等の知っているとおりである。人、個々人は善である。しかし、システムに組みこまれたときから、悪を為そうとはごうも亳も考えない者でも、結果として悪を為す。唯一の水の惑星である地球を破壊することも辞さなくなるのだ。なぜか? 想像力がないからというのはやさしいが、もう、そのような言葉をつかって遊んでいるときではない。改心を待っているときでもない。すでに、人の業が過剰だからだ。
 決起のときは、まだ決定していない。しかし、連邦政府の中枢を粛清して、我々の教義を世界に広めなければならない。それが、人類、百億年の存続を約束するものである。そして、諸君等クロスボーン・バンガードは、現在の高貴な精神をさらに高めて、人を導くコスモ主義を実践するものになるために、選ばれた前衛である。
 高貴な人は、高貴であるがゆえに凡俗以上に身を律して、その規範をしめさなければならない。自らの血をながすことを恐れなければ、クロスボーン・バンガードの前衛としての殺戮行為は、神が許してくれると断言できる。なぜならば、殺戮そのものが目的ではなく、ひとつの種が生きるための一時の自浄行為であるからだ。故に、己の血をながしてみせろ!人の血をみたら、泣け! そして、死にゆく者に、満腔をこめて哀悼の意をしめせよ! それができる大きな人間、高貴なる者なれば、以後の世をまちがいなく率いてゆくことができる。そして、さらにだ、より切磋琢磨した人類は、すべからく高貴なるものになって、人類総体、ニュータイプになる時代となるであろう。これが、ビック・ロナのシャルンホルスト以来、マイッツァー・ロナが語る夢である。そして、それを実践する尖兵として、諸君等が、クロスボーン・バンガードとして結成されたのである。
 クロスボーン・バンガードは前衛である。前衛は過酷である。はっきりと申せば、大量の虐殺を実施して、旧来のシステムに潰された人びとを粛清する仕事をしなければならないからだ。が、この泥をかぶる仕事をするものがいなければ、スペース・コロニー時代といえども、無尽蔵に人を生かしつづけることができない。誰かがやらなければならない仕事なのである。その覚悟の表明が、わたしにとっては、この鉄仮面である。大量虐殺についての罪は、すべてわたしがかぶる意志表示である。諸君等は、大義を理解して、過酷な任務を遂行すれば良い。罪は感じるな。涙をながすだけで良い。そして、前衛としてのクロスボーン・バンガードの任務を実施するあいだに、己を高めよ! 高貴なる者になれ! そして、人類の指導者たるにふさわしい者になれば、それが諸君等の魂の贖罪になることは、保障しよう。
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